ガイドコメント
西海岸のカリスマ・バンドとなったドアーズが、1968年に発表した3rdアルバム。バンドの不調和に悩まされながらも、前作から一転してスリリングなポップを展開して大ヒットした。
収録曲
01ハロー・アイ・ラヴ・ユー
キンクスの「オール・オブ・ザ・ナイト」を下敷きにしたポップ・ソング。他愛ないラブ・ソングのように聴こえるが、歌詞にはモリソンらしいフレーズもあるし、何よりも彼が歌えばそれだけで充分にアンモラル。1968年の夏、全米No.1ヒットを記録している。
02ラヴ・ストリート
愛と平和の時代にふさわしいポップ・ソングのように思われるかもしれないが、モリソンが歌うと、サンフランシスコのヒッピーたちを皮肉っているようにも聴こえる。敢えてピースフルなポップ・ソングを装っているようなサウンドも怪しい。
03大地に触れずに
のちに『アブソルートリー・ライヴ』で披露される大作「ザ・セレブレイション・オブ・ザ・リザード」の一部。ここでのモリソンのパフォーマンスには鬼気迫るものがあるけれど、異様なまでの緊張感を最後まで維持し続ける3人の演奏も素晴らしい。
04夏は去りゆく
「水晶の舟」や「月光のドライヴ」の流れを受け継ぐ美しいバラード。ピアノとスライド・ギターをフィーチャーしたサウンドをバックに、モリソンは最後までシャウトすることなくクールに歌っている。この手の小品がいちばん好きだというファンも多い。
05ウインタータイム・ラヴ
キャッチーなフックを持つワルツ。ヨーロッパ的なニュアンスはいかにもクリーガーらしい。マンザレクのクラシカルなハープシコードも効いている。モリソンの歌声はクールに醒めているが、それがこの曲の豊かな詩情をより強調している。
06名もなき兵士
ドアーズにしては意外なほど率直なプロテスト・ソング。途中に挿入される隊列の足音や銃殺シーンのSEはやや安易な発想とも思えるが、これをライヴで再現した時には観客は皆、凍りついたという。プロモーション・クリップでもそのシーンを観ることができる。
07スパニッシュ・キャラバン
クリーガーの鮮やかなフラメンコ・ギター・ソロから始まる曲。こういった異国情緒がドアーズにはよく似合う。インストゥルメンタルをフィーチャーした曲だから、モリソンの歌はオマケに近い。エレクトリック・パートはサイケデリックというよりもむしろプログレッシヴか。
08マイ・ワイルド・ラヴ
モリソンのア・カペラから始まる曲。その後も手拍子とパーカッションのみの伴奏で、威勢のよい掛け声も入ったワーク・ソング風のコーラスが最後まで続く。歌詞には“Japan”も出てくるが、そこに何らかの意味が隠されているのかどうかは不明。
09一緒にいられたら
シャッフル・ビートとR&B調のサウンドに乗って、モリソンが「一緒にいられたら楽しいだろうな」と歌う。他愛ないラブ・ソングのように聴こえるが、歌詞の一部にはモリソンらしい表現もある。やや衰えてはいるものの、彼の魔力はまだ失われてはいない。
10川は知っている
クリーガーが書いたジャジィなバラード。マンザレクのピアノやデンズモアのドラミングがジャズ・オリエンテッドなプレイを見せるのは珍しくもないが、モリソンのレイジーな歌声にもジャズ・ヴォーカル風のニュアンスが感じられる。
11ファイヴ・トゥ・ワン
「バック・ドア・マン」の暴力性を受け継いだ曲。ヘヴィなブルース・ロック・サウンドに馬乗りになったモリソンが「もう一度、一緒にやろうぜ」と叫ぶ。性的なニュアンスも濃厚だが、それ以上に暴力的な血の匂いがこの曲には染みついている。