ガイドコメント
共同プロデューサーに元カーネーションの棚谷祐一を迎え、98年3月リリースの8枚目。ロック/ポップスのマニア心をくすぐる細かい仕掛けはさすが。「スカーレット」ほか粒揃いの楽曲を収録。
収録曲
01エトランゼ
乳白色の霧が立ち込めるかのような幻想的な空気を湛えた、8th『フェイクファー』のプロローグ。違和感だらけのこの世界に生きるエトランゼ(異邦人)に、不意に蘇る前世の記憶……、そんな神秘的な感覚を音で再現した小曲だ。
02センチメンタル
切なさを抱えきれずに、ヤケになって笑い出す……、そんな自暴的な感情が強烈なグルーヴとなって紡ぎ出される、史上最強のセンチメンタル・ロック。究極の歪みサウンドに甘美な空気が立ち込める、これぞスピッツ・サウンドの白眉。
03冷たい頬
まるで日溜りのような、やわらかいアコースティック・サウンドに包まれて綴られる、“君”への追憶記。無邪気な日々は、切なさへと疾走し、そして永遠の別れへ……。淡い色彩を放つ、あまりに穏やかで哀しいラヴ・ソングである。
04運命の人 (アルバム・ヴァージョン)
アコースティックな優しさはそのままに、今までにないダイナミックなサウンド・アプローチを見せた、勇壮なラヴ・ソング。直球のタイトルながらも、キメの“アイニージュー”をカタカナにしちゃうカワイイところが、やっぱりスピッツ。
05仲良し
異性に初めて抱く、いいようもない気持ち。そんな幼き日のほのかな恋を振り返る、切なくも温かなアコースティック・ナンバー。繊細な少年の視点と、童心そのものの可憐なサウンドが、ピュアだったあの頃への憧憬を掻き立てる。
06楓
甘美でセンチメンタルなメロディに乗せて綴られる、別れのバラード。それはまるで、やわらかな陽光の中を、楓の葉が儚く散りゆくような……。ギターの轟きと溶け合うピアノの旋律が、晩秋の景色のごとく、深く艶やかな色彩を添える。
07スーパーノヴァ
まさに地獄まで真っ逆さまといった感の、どストレートなハード・ロック。“スーパーノヴァ”とは恒星最期の大爆発のことで、本作では燃え尽きるほどの激しい愛を意味する。革ジャン系ロックながら、実は最強のラブ・ソングなのだ。
08ただ春を待つ
初期の作風が顔を覗かせる、和テイストのバラード・ナンバー。“春を待つ”楽しみが、“ただ待つ”ことへの哀しさへと移りゆくような展開は実にドラマティック。春に恋焦がれるごとくの高音鮮やかなマサムネの声もまた、胸を衝く。
09謝々!
ゴージャズな女声コーラスとホーンをフィーチャーした、スピッツ異例のソウル風ナンバー。“いつでもやさしい君”への感謝の気持ちは、生きる喜びへと広がる。そんな心の展開を、伸びやかなメロディいっぱいに描いた感動作。
10ウィリー
俺もお前もサルなんだ結局のところ。思い悩むこと多きマサムネ・ワールドは、ここで究極の開き直りに打って出る。♪イエ〜イ、サルがいく、サルの中を……、と高らかな歌声も、奔放なベースも、まさにお猿さんのごとくワンパクだ。
11スカーレット (アルバム・ミックス)
ゆらめく陽炎のごとく切ないアルペジオの響きと、毛糸のごとくやわらかい質感のマサムネ・ヴォイスが織りなす、温もりあふれるラヴ・バラード。やさしいスピッツ・ワールドは、淋しがりな僕らを、いつでもそっと包み込んでくれる。
12フェイクファー
“偽りの海に身体委ねて、恋の喜びに溢れてる”、かくも残酷なこの世界の真理を、甘美で切ないメロディに乗せて描き上げる、珠玉のロック・バラード。8th『ファイクファー』の幻想が華麗に散るがごとくの美しいエピローグ。