ガイドコメント
ルーツ回帰するような「ロードハウス・ブルース」から始まり円熟を垣間見せた、1970年発表の5thアルバム。荒削りで獰猛な曲と歌唱を多く含み、ドアーズの全作品中、最もワイルドかつブルージィな1枚となった。
収録曲
01ロードハウス・ブルース
ミディアム・シャッフルのブルース曲。ドアーズのオリジナル・ブルースとしてはベストの演奏が聴ける。前作『ソフト・パレード』では精彩を欠いていたモリソンの歌声にも自信と貫禄が感じられる。親友ジョン・セバスチャンがマウスハープで客演。
02太陽を待ちながら
同題のアルバムのアウトテイクにダビングを加えたニュー・ヴァージョン。多くのファンが彼らに求めている音楽がここにはある。ドアーズならではの幻想的なサウンドとモリソンの雄々しい歌声。饒舌ではないが、力強い表現が楽しめる。
03ユー・メイク・ミー・リアル
マンザレクのブギウギ・ピアノをフィーチャーしたロックンロール。初期のモリソンからは想像もできないくらい単純な歌詞を歌っているが、ロックンロール本来の原初的な感覚を取り戻そうとしていた当時の彼にはこちらのほうがふさわしい。
04ピース・フロッグ
ドアーズならではのマジックが蘇った曲。モリソンならではの“詩”がここにはあり、その歌声も往年のカリスマ性を取り戻している。ギターによる間奏の後のポエトリー・リーディングでは有名な幼年期の体験を描いたシークエンスが披露されている。
05ブルー・サンデイ
モリソンが愛妻パメラに捧げたラブ・ソング。オルガンとギターが奏でる涼しげなサウンドを背景に、モリソンは俳句的なまでに簡潔な言葉で愛を表現している。この曲の美しさは初期のヴェルヴェット・アンダーグラウンドを思い出させる。
06愚か者の船
ヒッピー讃歌「木の舟」を嘲笑うかのような「愚か者の船」。ラテン調のリズム、めくるめくハモンド・オルガンの調べ、ジャジィなギターなど、ドアーズならではのサウンドが楽しめる。皮肉と諦観が同居したようなモリソンの歌声もいい。
07ランド・ホー
“Land Ho!”(陸が見えたぞ!)というタイトルを冠した船乗りの唄。陽気な演奏と陽気な歌声が楽しめる軽快なポップ・ソング。初期ドアーズのスリルとサスペンスはすでにないが、モリソンの歌声と3人の演奏があれば、それだけで充分に楽しめる。
08ザ・スパイ
ミディアム・スローのシャッフルによるブルース曲。アナイス・ニンの小説『愛の家のスパイ』からヒントを得て書いた歌詞を秘密めいた態度で歌うモリソンがチャーミング。テンションはそれほど高くないが、適度の緊張感がある。
09ハイウェイの女王
モリソンが愛妻パメラと自分自身について歌った曲。彼女は“ハイウェイの女王”で、彼は“黒革を着た怪物”。自意識過剰気味の歌詞が彼らしい。ブルージィなサウンドに乗って、ナルシスティックに歌ってみせるパフォーマンスも彼ならでは。
10インディアン・サマー
白昼夢のように美しい小品。初期の「水晶の船」を思い出させる。と思ったら、実は1stアルバムのアウトテイクに手を加えたものだったらしい。夢の中で囁いているような官能的な歌声と非現実的なまでにリリカルなギターの競演。
11マギー・マギル
モリソンのワイルドな歌声が堪能できるオリジナル・ブルース。「ロックンロール・スターの私生児」なんて一節をこんなふうに呪文みたいに歌ってみせるシンガーは他にいない。即興的なパフォーマンスが始まる前にフェイドアウトしてしまうのが惜しい。