ガイドコメント
結成15年目、10枚目のオリジナル・アルバムをリリースしたばかりのスピッツの旧作品がリマスター、低価格で登場。本作は91年3月発売のメジャー・デビュー盤。瑞々しいナンバーがずらり。
収録曲
01ニノウデの世界
デビュー・アルバムのオープニングを飾る、キャッチーな歌謡ロック。フェチシズム炸裂のシュールなマサムネ・ワールドもさることながら、初期のスピッツ・サウンドを語るに欠かせないのは、本作で際立つ三輪の甘美で繊細なアルペジオ。
02海とピンク
軽快なアコギのイントロを皮切りに、血迷うほどの無邪気さが炸裂する天真爛漫なロックンロール。そのリリックは相変わらず実に難解だが、言葉もリズムとして捉えれば、目の前の海にワクワクしちゃう、といった感の楽しい作品だ。
03ビー玉
“タマシイ転がせ、チィパチィパ”と、まるで子供がビー玉で遊ぶごとくの様子になぞらえた、なんともほのぼのしたフォーク・チューン。その呑気なサウンドと無邪気な詞世界に潜むのは、幼子のごとく研ぎ澄まされた感性と無垢な残虐性。
04五千光年の夢
高橋新吉の詩「五千光年のくしゃみ」の世界に触発されたという、無邪気で淋しげなポップ・チューン。“五千光年の夢がみたいな”と、とてつもなくスケールのデカいことを屈託なく歌っちゃうマサムネ君。大物の兆しはすでにあったのだ。
05月に帰る
美しいギターの轟音が、宇宙空間という広大な舞台を描き出す、三輪テツヤ作曲の幻想的なスロー・ナンバー。“もうさよならだよ”という別れの言葉が夜空に滲んでゆく様が切なくも美しい、言わばスピッツ版『竹取物語』である。
06テレビ
支離滅裂なリリックゆえに、スピッツ史上最強の不思議ソングとして語られる本作。しかしサウンド面で見れば、実にキャッチーでアッパーなロック・チューンである。メロディに関しては、奇才ではなく、あくまで天才なのだ、マサムネ君は。
07タンポポ
ボロボロな自分の姿を、道端で踏まれるタンポポの姿にぼんやり重ねた、切ないスロー・ナンバー。現実に馴染めず、想い出に逃げるしかない主人公のやるせなさが、3拍子のメロディでひしひしと描き出される。
08死神の岬へ
死神の岬を目指す2人を追った、三輪テツヤ作曲による幻想的なナンバー。いかにも弱々しい足取りといった感の淋しいサウンドが、次第に厚みを増し、最終的にはサイケデリック・サウンドに変貌するという展開に目からウロコ。
09トンビ飛べなかった
弱さを武器にしたスピッツの原点とも言える、カッコいいロック・ナンバー。“トンビ飛べなかった”という、身もフタもないフレーズを高らかに歌い上げてしまう潔さは、情けないどころか、もはや美学の域である。
10夏の魔物
夏の生ぬるい風が頬を撫でていくような、そんな心地よい疾走感を携えた抒情派フォーク・ロック。どこか儚げな“二人”を描いたリリックは、難解ながらも夏の情緒たっぷり。聴くほどに切なさを掻き立てる、初期の名ナンバーだ。
11うめぼし
草野マサムネの大学時代の作品という、味わい深いアコースティック・ナンバー。“梅干食べたい僕は、今すぐ君に会いたい”という不思議なリリックに、切ない想いがそのまま流れ出るがごとくの美メロは、純朴にして秀抜な芸術作品。
12ヒバリのこころ
“僕らこれから強く生きていこう”……、未来への決意を力いっぱい歌う正宗の声も瑞々しい、91年のデビュー曲。どこか懐かしいメロディにヘヴィなサウンド、というスピッツならではの歌謡ロック・スタイルは、今だ鮮烈。