ガイドコメント
カリスマ・シンガー、ジム・モリソンを擁し、独自の音楽で時代を切り裂いたドアーズが、1967年に発表した衝撃のデビュー・アルバム。レイ・マンザレクのベースとメロディを同時に弾くオルガンを全面に押し出した不朽の名作。
収録曲
01BREAK ON THROUGH (TO THE OTHER SIDE)
バンド名の原典でもあるオルダス・ハクスリーの『知覚の扉』からヒントを得た“向こう側へ突き抜けろ”というメッセージが孕む暴力的な恍惚感はサウンドにも表われている。ラテン系のリズムとシャッフル・ビートが混ざり合う瞬間のスリルもドアーズならでは。
02SOUL KITCHEN
ジャジィな気配を秘めたハモンド・オルガンを主軸にしたR&B調のサウンドに乗って、モリソンが“魂の台所”に“オールナイト”を要求する。醒めた歌声と唐突なシャウトとの多重人格的なギャップが魅力。“オールナイト”で聴いてもいい初期の名曲。
03THE CRYSTAL SHIP
ドアーズが奏でた最も美しい曲のひとつ。触れたら壊れそうなくらい儚いサウンドを背景にしたモリソンの歌声が永遠に続くことを祈りたくなる。本気でプレイしようと思えば一晩中でも演奏を続けることができるはずのモチーフがここにはある。
04TWENTIETH CENTURY FOX
レイ・マンザレクの妻ドロシーについて歌った曲。ジャズやラテンの匂いを漂わせながらブルージィにロックしてみせるミクスチャーなサウンドはドアーズならでは。ここでのモリソンの歌声はやや演技過剰気味だが、それはそれで面白い。
05ALABAMA SONG (WHISKY BAR)
文学青年らしい選曲かどうかはともかく、ブレヒト=ワイルのこの曲がこんなふうに似合うバンドは他にはなかった。演技派モリソンのヴォーカルも含めて、1967年にはドアーズ以外にはあり得なかった演劇的パフォーマンスが楽しめる。
06LIGHT MY FIRE
1967年の“愛の夏”を彩った全米No.1ヒット。モリソンのクールな歌声と壮絶なシャウト、めくるめくハモンド・オルガンの調べ、エキゾチックなギター・ソロ、ラテン系のセクシーなリズムなど、ドアーズならではの魅力を詰め込んだ超強力なサンプラーでもある。
07BACK DOOR MAN
不道徳の権化の如きモリソンのテーマ・ソングは、ウィリー・ディクスンの原曲を劇的に改造した不埒なブルース・ロック。巧みに抑制された演奏に馬乗りになったモリソンのシャウトはピークの一歩手前でストップ。続きはライヴで、ということか。
08I LOOKED AT YOU
1stアルバム収録曲らしい若手バンドの初々しさが感じられる唯一の曲。ビートルズの影響の痕跡を鮮明に残したポップなロックンロールだが、モリソンが錯乱のシャウトの片鱗を垣間見せるブレイク後の終盤だけはドアーズらしい。
09END OF THE NIGHT
セリーヌの自伝的小説『夜の果てへの旅』に触発されて書かれた曲。“終わらない夜”があることを知っている者のための鎮魂歌。ここでのモリソンの歌声は怖いくらいに醒めている。震えながら泣いているスライド・ギターも効果的。
10TAKE IT AS IT COMES
ラテン系のリズムとエキゾチックなハモンド・オルガンを配したサウンドはいかにもドアーズ。ここでのモリズンの歌声は若々しい。ポジティヴなメッセージを含む歌詞だが、“急ぎ過ぎる君”の失敗を予感させる不吉な前兆もあるところはやはりドアーズ。
11THE END
父親殺しと母子相姦をモチーフにした11分以上の大作。過剰なまでに劇的な歌唱と演奏が未知の領域へと踏み込んでいく。ポップ・ソングの限界から逸脱した幻覚的な歌詞も美しい。映画『地獄の黙示録』はこの曲のためのミュージック・ビデオのようにも思える。