ガイドコメント
名作『フーズ・ネクスト』に続き、73年に発表された2枚組コンセプト・アルバムのリミックス/リマスター再発盤。ピートが全曲を手がけているのでピート・ファンは必聴。クリアな音で聴けます。
収録曲
[Disc 1]
01I AM THE SEA
押し寄せる波の音から始まる曲。『四重人格』の主人公ジミーの中の4つの人格を象徴する4曲のテーマのダイジェストが紹介される。ジミーの中の4つの人格はザ・フーの4人の人格を象徴するし、4曲のテーマはザ・フーの4人のテーマでもある。
02THE REAL ME
変則的なリズム・パターンに切れ味の鋭いギターやホーン・セクションが絡み、ロジャーが「本当の僕がわかるのか?」とシャウトする。主人公のジミーは誰も「本当の自分」をわかってくれないと感じている。嵐のように荒れ狂うリズム・セクションが圧巻。
03QUADROPHENIA
4つのテーマをシンフォニックにアレンジした『四重人格』のテーマ曲。ストリングスを模したシンセサイザーやエレクトリック・ギターがメイン楽器としてメロディを奏でるが、あくまでも基本はバンド・サウンド。エンディングには波の音がフィーチャーされている。
04CUT MY HAIR
ピアノを基調にした繊細なタッチのイントロから始まる曲。思案に暮れる主人公ジミーの内的な独白。ヴォーカルはピートだが、サビではロジャーが歌い、ピートはハーモニーにまわる。モッズとロッカーズとの衝突を伝えるBBCのアナウンサーの声が挿入されている。
05THE PUNK AND THE GODFATHER
ピートの豪快なギター・ストロークが牽引するロック・チューン。“チンピラ(punk)”のジミーと“ゴッドファーザー”と呼ばれるロック・スターとの対話を、ロジャーと3人がヴォーカルをシェアしながら歌っている。曲中にライヴでの観客の歓声が挿入される。
06I'M ONE
穏やかなアコギの弾き語りとバンド編成での賑やかなカントリー・ロック調サウンドとの対比が鮮やかな曲。ピートが主人公ジミーの内省的な思索とある決意を歌っている。“僕はひとりだ”という(『四重人格』では)意味深長なリフレインがやけに印象に残る。
07THE DIRTY JOBS
主人公ジミーの仕事場での苦労や悩みをロジャーが歌う。ストリングスを模したシンセサイザーがメイン楽器としてバッキングを務め、リズム・セクションがそれをサポートしている。ロジャーの歌唱力を思い知らせてくれる曲でもある。さまざまなSEの挿入も多い。
08HELPLESS DANCER
ピアノとアコギの伴奏でロジャーが歌う“ロジャーのテーマ”。激しいシャウトが目立つロジャーのヴォーカルはオペラ形式のアリア仕様。イントロとエンディングにはフレンチホルンが鳴り響き、エンディング後には「キッズ・アー・オールライト」が挿入される。
09IS IT IN MY HEAD
頭がおかしくなりそうな疑問の数々に囚われた主人公ジミーのクレイジーな内的独白を、ロジャーが歌う劇的なバラード。基調になっているサウンドは牧歌的で美しいが、ノイジーなエレクトリック・サウンドがそのピースフルなムードに揺さぶりをかけている。
10I'VE HAD ENOUGH
ギター・バンド・サウンドが基調だが、他の曲の断片が何度も挿入されるために擬似組曲風に混乱している。その混乱した構成と歌詞は、ジミーの中の4つの人格が主導権を争っている様を描いているようだ。ロジャーとピートがヴォーカルをシェアしている。
[Disc 2]
015:15
アルバム『四重人格』からの唯一のシングル曲。ホーンを配した狂騒的なバンド・サウンドに乗って、ロジャーが力強いシャウトを披露し、コーラスとの掛け合いを演じる。関連性のない言葉の断片を羅列した歌詞も面白い。唐突に静かになるサビとの対比も鮮やか。
02SEA AND SAND
波の音とカモメの鳴き声から始まる曲。家を追い出された主人公ジミーの過去の回想と現在の絶望をロジャーが歌う。ハイ・ナンバースの「アイム・ザ・フェイス」の歌詞が引用されている。豪快なバンド・サウンドと穏やかなシークエンスとの対比も鮮やか。
03DROWNED
クリス・ステイントンのピアノをフィーチャーしたブルース・ロック。ピートのお気に入りの曲でもあり、ライヴでも定番曲のひとつだった。歌詞によれば、主人公のジミーは海に入っていったようだ。シンプルな構成の曲だが、途中で「5:15」のリフが挿入されている。
04BELL BOY
キースのフィル・インから始まる“キースのテーマ”。メイン・ヴォーカルはピートだが、キースはラップ的なヴォーカルで“かつてモッズの顔役だったベルボーイ”も演じている。ピートの力強いギター・ストロークが先導するタフなバンド・サウンドが基調。
05DOCTOR JIMMY
波と風と雷雨のSEから始まる“ジョンのテーマ”。ハード・ロックの「Doctor Jimmy」とバラードの「Is It Me」を合体させたミニ組曲。シンセサイザーとドラムスがメイン楽器として活躍している。ロジャーのヴォーカルも素晴らしい。『四重人格』を代表する名曲のひとつ。
06THE ROCK
アルバム・タイトル曲「四重人格」の変奏曲のようなインストゥルメンタル曲。ほぼ全篇でキースのドラミングがフィーチャーされ、4つのテーマが「四重人格」とは異なるアレンジで繰り返される。イントロには雨、エンディングには雷雨のSEが挿入されている。
07LOVE REIGN O'ER ME
雨とピアノから始まる“ピートのテーマ”。ザ・フーのレパートリーの中でも最もドラマティックなバラード。ストリングスを模したシンセサイザーとキースのドラミングを主体にしたサウンドが独自の世界を構築し、ロジャーが一世一代のシャウトを披露している。