ガイドコメント
金銭的事情により(ライヴで楽器壊すから……)、メンバー全員が作曲し、またいろいろな楽器のプレイにも挑戦している66年発表の2ndに、当時の未発表ヴァージョンなどを追加した1枚。
収録曲
01ラン・ラン・ラン
ピートがザ・キャットに提供した曲のザ・フー・ヴァージョン。R&B調のサウンドだが、1966年10月の録音だから、すでにサイケデリックな要素も入り込んでいる。ピートらしいギターのフィードバック・サウンドが効果的。疫病神を連想させる歌詞も面白い。
02ポリスのくも野郎
ジョンがザ・フーのために書いた最初の曲。気味の悪い蜘蛛についての歌で、作者のジョンも不気味な低音ヴォーカルを披露している。ライヴ定番曲のひとつであり、89年の結成25周年のリユニオン・ツアーでも演奏された。
03アイ・ニード・ユー
キースが書いたポップ・ソング。ブライアン・ウィルソンを気取ったキースがファルセットで歌い、狂騒的なドラミングを披露している。フェイド・アウト前に「カリフォルニア・ガールズ」風のピアノが挿入されるところも、ビーチ・ボーイズを偏愛するキースらしい。
04ウィスキー・マン
ジョンが書いた風変わりな曲。作者のジョンがダブル・トラックで歌うキャッチーなポップ・ソングだが、彼が吹くフレンチ・ホルンが奇妙な効果を上げている。アル中を語り手にした物語風の歌詞では、主人公は精神病院の独房に閉じ込められるハメに陥る。
05恋はヒートウェーヴ
モッズ御用達のマーサ&ザ・ヴァンデラスのヒット曲をカヴァー。彼らにとっては2度目のカヴァー・ヴァージョンで、荒削りなロックンロール・バンド・ヴァージョンだった前者と比較すれば、より洗練されたポップ・サウンドに仕上げられている。
06くもの巣と謎
キースが書いた風変わりなインストゥルメンタル曲は、ピートのギターとキースのドラムとのインタープレイをフィーチャーしたもの。ステレオ効果を出すために、マイクの前を行進しながら4人がさまざまな楽器(オモチャも含む)を賑やかに演奏している。
07ふりむかないで
ピートが書いたポップ・ソング。ドラムのバックビートとアコースティック・ギターを前面に出し、ザ・フーらしいメロディやコーラスを聴かせる。彼ららしいひねりはあまりないが、キャッチーで聴きやすい、当時のザ・フーの標準的な曲のひとつといえる。
08恋のマイウェイ
バディ・ホリーを意識したらしいロジャーの曲。クリケッツのドラム・サウンドを再現するためにキースは段ボール箱を叩いている。不遜な歌詞はいかにもロジャーらしいが、コンパクトにまとまったポップなサウンドはあまりザ・フーらしくはない。
09ソー・サッド・アバウト・アス
ピートがマージーズに提供した曲のザ・フー・ヴァージョン。キャッチーなポップ・ソングの中にザ・フーの魅力を詰め込むことに成功した例のひとつ。特にキースの派手なドラミングがうれしい。のちにポール・ウェラー率いるザ・ジャムがカヴァーしている。
10クイック・ワン
ピートが書いた初のロック・オペラ。6つの曲を合体させた組曲形式で恋人たちの物語が進行していく。といってもシリアスな物語ではなく、半分以上は冗談だと思った方がいい。なにしろチェロが鳴るべき箇所で「チェロ、チェロ、チェロ」と歌っているのだから。
11バットマン
1966年11月に発表されたEP「Ready,Steady,Who!」収録曲。60年代の青少年なら誰もがみんな知っている「バットマンのテーマ」。ザ・フーならもっと暴れるかと思ったら意外に淡白な演奏。レコーディングの合間に遊びでプレイしたようなヴァージョン。
12バケット・T
1966年11月に発表されたEP「Ready,Steady,Who!」収録曲。ジャン&ディーンのホットロッド・ソングのカヴァー。この手の音楽を偏愛していたキースが歌っている。ジョンのフレンチホルンも象の遠吠えのような音でキースを応援しているようだ。
13バーバラ・アン
1966年11月に発表されたEP「Ready,Steady,Who!」収録曲。ビーチ・ボーイズのヒット曲をカヴァー。この手の音楽を偏愛するキースが嬉しそうにファルセットで歌っている。ザ・フーのレパートリーの中でも、最も笑わせてくれる1曲であることは間違いない。
14ディスガイジズ
1966年11月に発表されたEP「Ready,Steady,Who!」収録曲。狂騒的なザ・フー版“音の壁”と変態(いや変装か?)的な歌詞が楽しめる意欲作。意味不明のアラビックなメロディと工事現場ばりのメタリックでノイジーなサウンドが斬新に響く。
15ドクター・ドクター
シングル「リリィのおもかげ」のB面収録曲。ジョンが書いた風変わりな曲のひとつ。エキゾチックなサウンドに乗って、ジョンが全篇ファルセットでヒステリックに歌いまくる。病気のデパートみたいな男を語り手にした歌詞もおかしい。
16アイヴ・ビーン・アウェイ
シングル「ハッピー・ジャック」のB面収録曲。ジョンが書いた風変わりな曲のひとつ。カントリー調のワルツに乗って、兄弟の身代わりで刑務所にぶち込まれた男の愚痴が歌われる。奇妙な味のポップ・ソングを書かせたらジョンは世界一の作家かも。
17イン・ザ・シティー
シングル「アイム・ア・ボーイ」のB面収録曲。キースとジョンの共作曲。ピートとロジャーがいなかったので、二人だけでバッキング・トラックを制作した。キースが大好きなホットロッド・ソングの英国版。のちにピートのギターがオーヴァーダブされている。
18ハッピー・ジャック (アクースティック・ヴァージョン)
1966年11月に録音されたまま1995年まで未発表だった「ハッピー・ジャック」のアンプラグド・ヴァージョン。どんなアレンジでも名曲は名曲。ピートはアコギとチェロを演奏している。コーラスとパーカッションがとても効果的に使われている。
19マン・ウィズ・マネー
エヴァリー・ブラザーズの1965年のシングル「ラヴ・イズ・ストレンジ」のB面曲をカヴァー。この曲ならザ・フー・サウンドになると思ったのか。金持ち大好き女のために強盗になる男を描いた歌詞が気に入ったのか。いずれにしても、29年間も未発表だった。
20マイ・ジェネレイション/希望と栄光の国
当初はEP「Ready,Steady,Who!」に収録される予定だった「マイ・ジェネレイション」の未発表ヴァージョン。キースのスネア・ドラムの音が圧巻。ノイズの嵐からエルガーの「希望と栄光の国」へと繋がる過剰なまでに大仰なエンディングも凄い。