ガイドコメント
長きにわたって活動してきた英国が誇るバンドのオリジナル・ラスト・スタジオ・レコーディング、82年発表作品の再発盤。ボーナス・トラックにトロントでのライヴ音源4曲を追加収録。
収録曲
01ATHENA
アコギとドラムスが絡むイントロからザ・フーならではの世界。ケニーのドラミングも的確で、サンバ調のリズムが心地よい。ピートとロジャーが交代でヴォーカルを務め、愛する爆弾娘について歌っている。この時期のザ・フーとしては最高の曲のひとつ。
02IT'S YOUR TURN
ジョンが書いたロック・チューン。最盛期のザ・フーを思わせる分厚いギター・バンド・サウンドに乗って、ロジャーが後輩ミュージシャンへの皮肉だらけの助言を歌っている。意地の悪い歌詞はいかにもジョンらしい。アンディ・フェアウェザー・ロウがギターで参加。
03COOKS COUNTY
変拍子を使ったユニークな曲。ブルージィなヴァースとキャッチーなフックとのミスマッチ気味の組み合わせが面白い。ロジャーのソウルフルなヴォーカルとポップなコーラスとの絡みもいい。音楽の力を信じた歌詞は「ピュア・アンド・イージー」などにも通じる。
04IT'S HARD
ブルージィなリード・ギターから始まる曲。軽快なビートに乗って、生き続けることの辛さをロジャーが歌う。起伏の少ないシンプルな曲だが、キャッチーなフックのコーラスはザ・フーらしい。ピートがこの時期では最高のギター・ソロを披露している。
05DANGEROUS
ほぼ全面的にシンセサイザーを導入したジョンの曲。米国製ハード・ロック風の80年代サウンドに乗って、超自然的な恐怖についてロジャーが歌う。シンセサイザーの陰に隠れて、ピートのギターはほとんど目立たないほど。
06EMINENCE PRONT
シンセサイザーのループとジャジィなギター・ソロによる長いイントロを経て、ピートが歌い始める。軽めのファンク・ビートとブルージィなメロディが心地よい。歌詞は単純すぎて理解し難いが、どうやら影の権力者をパーティに誘っているようだ。
07I'VE KNOWN NO WAR
シンセサイザーを主体にしたヘヴィなサウンドをバックに、「俺は戦争は知らない」とロジャーが歌う。単調なバッキング・トラックにストリングスが絡む間奏とその後の劇的な展開はザ・フーらしい。ギターやピアノも地味ながら自分たちの役割を果たしている。
08ONE LIFE'S ENOUGH
ストリングスを模したシンセサイザーとピアノをバックに、ロジャーがややオペラ風に10代の想い出を歌う。ロック・オペラの中の美しい小品といったような趣向の1曲だが、これはこれでザ・フーらしい。決して派手ではないが、ピートの弾くピアノがとても良い。
09ONE AT A TIME
ホーン・セクションとシンセサイザーを駆使したジョンの曲。性急なビートと賑やかなサウンドに乗って、一度しか寝てくれない悪女についてジョンが歌う。景気のよい曲で、ギター・ソロもたっぷりとある。ザ・フーらしいかどうかはともかく、ジョンらしいことは確か。
10WHY DID I FALL FOR THAT
ポップな曲調と曖昧な歌詞によるピートの曲。ロジャーとコーラスが歌うキャッチーなメロディと輪郭の鮮明なサウンドは、60年代ポップと80年代AORとの間の子供みたいにポップ。歌詞は、核戦争後の世界を描いた近未来SFのようにも聴こえるが……。
11A MAN IS A MAN
「本当の男とは何か?」について、ロジャーが歌う美しいバラード。テンポ・チェンジなどの劇的な仕掛けもあり、ジョンのベースも唸りを上げる。「誰かに手を差しのべるとき/男は男なんだ」とロジャーとピートが2人で歌うフックが感動的。
12CRY IF YOU WANT
マーチのリズムに乗ってピートのパワーコードが炸裂する曲。ロジャーが歌っているのは誰かを辛辣に批判する歌詞だが、やや強引に自己批判だと解釈したほうがピートらしいし、ザ・フーの最後のスタジオ録音アルバムの“スワン・ソング”にもふさわしい。
13IT'S HARD
1982年12月17日、トロントのメイプル・リーフ・ガーデンでのライヴ録音。ギターを弾きながら歌っているロジャーのヴォーカルはスタジオ録音版よりも力強く、ジョンのベースも唸りを上げている。ピートのギター・ソロは短いが、ファンにはうれしいプレゼント。
14EMINENCE FRONT
82年12月17日、トロントのメイプル・リーフ・ガーデンでのライヴ録音。ピートのギター・ソロが聴けるし、ロジャーの歌声もパワフルだし、ジョンのベースも快調。スタジオ録音版よりも活気のあるバンド・サウンドが楽しい。ティム・ゴーマンのキーボードも好サポート。
15DANGEROUS
82年12月17日、トロントのメイプル・リーフ・ガーデンでのライヴ録音。スタジオ録音版では米国製ハード・ロック風だったジョンの曲だが、この編成でのライヴではややザ・フーらしくなる。ピートのパワーコードが鮮明に聴こえるだけでも曲調は大きく変わる。
16CRY IF YOU WANT
82年12月17日、トロントのメイプル・リーフ・ガーデンでのライヴ録音。マーチのリズムに乗って、ロジャーがシャウトし、コーラスが追いかける。ジョンのベースが唸りを上げ、ピートのパワーコードやギター・ソロも堪能できる。これ以上、何を望む?