ガイドコメント
ローリング・サンダー・レビュー・ツアーの最中に発売され、5週連続全米1位を獲得したベストセラー作。無名に近いミュージシャンをレコーディングに起用し、その荒削りで奔放な演奏をバックに、力強いヴォーカルを披露した1976年作。
収録曲
01HURRICANE
殺人罪で投獄されたルービン“ハリケーン”カーターの無実を信じ、彼を救うために書かれた曲。バッキング・バンドをパワフルに先導してみせるディラン入魂のヴォーカルが素晴らしい。映像を喚起する劇的な歌詞とドラマティックなサウンドとの合体も効果的。
02ISIS
古代エジプトの女神の名をタイトルに冠したバラード。ヴァイオリンをフィーチャーした演奏をバックに、ピラミッドの盗掘の挿話を含むイシスと結婚した男の物語が歌われる。映像喚起型の歌詞がジャック・レヴィらしい。ディランのヴォーカルは攻撃的で鋭い。
03MOZAMBIQUE
エミルー・ハリスとのデュエットによる曲。タムを多用したエスニック風味のリズムに乗って、スカーレット・リヴェラのヴァイオリンが異国情緒感をより強調している。当時、革命で揺れ動いていたモザンビークを、皮肉たっぷりパラダイスのように美化した歌詞も楽しい。
04ONE MORE CUP OF COFFEE
ディランが南仏滞在中に書いた曲。異国的なヴァイオリンをフィーチャーしたドラマティックなサウンドをバックに、ジプシー音楽やヘブライ音楽の影響を感じさせるエキゾチックなメロディをディランが歌う。エミルー・ハリスのハーモニー・ヴォーカルも効いている。
05OH, SISTER
スカーレット・リヴェラのエキゾチックなヴァイオリンをバックに、ディランとエミルー・ハリスが“シスター”に「仲よくしようよ」と歌うバラード。歌詞と歌声との相乗効果で性別が混乱しているところが面白い。フィルを多用したハウイ・ワイエスのドラミングも効いている。
06JOEY
NYに実在したギャング、ジョーイ・ガロの生涯を描いたバラード。ヴァイオリンとアコーディオンを配した劇的なサウンドとエミルー・ハリスのハーモニーをバックに、ブルックリンで生まれたジョーイが射殺されるまでの43年間をディランが“映画のように”歌っている。
07ROMANCE IN DURANGO
メキシコを舞台にしたテックスメックス調の曲。マンドリン、アコーディオン、ヴァイオリンなどを含む総勢24名の大編成バンドをバックに、ディランが歌うエキゾチックなバラード。このセッションにはエリック・クラプトンやイヴォンヌ・エリマンも参加している。
08BLACK DIAMOND BAY
ジョセフ・コンラッドの小説『勝利』に触発されて書かれたジャック・レヴィとの共作曲。ブラック・ダイアモンド湾を舞台に繰り広げられる物語を、饒舌に歌うディラン。エミルー・ハリスの無造作なハーモニーも光る。最後のオチも含め、見事に仕上げられた秀作。
09SARA
当時、離婚寸前だとも言われていた妻サラに捧げられたラブ・バラード。スカーレット・リヴェラによる哀愁のヴァイオリンをフィーチャーした演奏をバックに、2人の想い出とサラへの愛をディランがストレートに歌い上げる。自身によるマウスハープのソロも秀逸。