ガイドコメント
プロテスト・ソングが中心となっている通算3作目で、ディランの強烈なメッセージが織り込まれた初期の傑作アルバム。1963年作品。初期の代表曲となった「時代は変る」収録。
収録曲
01THE TIMES THEY ARE A-CHANGIN'
時代を動かしたプロテスト・ソング。公民権運動に揺れ動く60年代前半の米国で、古い世代の人びとに「時代は変わりつつある」と宣言し、新たな時代の到来を告げた。トラッド曲の歌詞とメロディからヒントを得て書かれた新時代のフォーク・ソング。
02BALLAD OF HOLLIS BROWN
古いカントリー・ブルース曲「プリティ・ポリー」のメロディを借りた曲。生活苦のために一家心中しなければならなかった実在の農民、ホリス・ブラウンについて歌っている。最後までワン・コードで悲劇的な出来事を淡々と歌うことで、曲の色合いを高めている。
03WITH GOD ON OUR SIDE
英国古謡のメロディを借りたプロテスト・ソング。「神が味方している」という題目を唱え続けることであらゆる戦争を正当化してきたアメリカの歴史を告発。自分はそんな連中には加担しない、と歌われている。終盤のキリストとユダの一節と最後のひと言が秀逸。
04ONE TOO MANY MORNINGS
倦怠感や無力感に囚われた一日を歌ったメランコリックなバラード。「くよくよするなよ」の内省ヴァージョンのような歌詞と「時代は変わる」に似たメロディによる失恋の歌。聴き手を妙に落ち着かせる鎮静剤のような効果もある。意外にもネガティヴな印象は稀薄。
05NORTH COUNTRY BLUES
ディランの痛切な歌声が耳に残るオリジナルのホワイト・ブルース曲。閉鎖された炭鉱の町に、3人の子供たちとともに取り残された哀れな女性が語る身の上話が歌われている。意欲的な名演による初期の名曲。ディランの故郷が廃鉱の町であったことも思い出させる。
06ONLY A PAWN IN THEIR GAME
公民権運動に関わっていた黒人メドガー・エヴァーズが白人たちに殺された1963年の事件を基に書かれた曲。犯人の白人たちは糾弾の対象ではなく、哀れむべき「将棋の歩」として歌われている。既成のプロテスト・ソングの範疇を逸脱した名曲。
07BOOTS OF SPANISH LEATHER
古い民謡の対話形式を踏襲したバラード。イタリアへ留学してしまった恋人スーズ・ロトロとの関係を基にした歌詞は「ダウン・ザ・ハイウェイ」の姉妹篇ともいえるだろうが、メロディは「北国の少女」(これもスーズ・ロトロをイメージした曲)によく似ている。
08WHEN THE SHIP COMES IN
古い世代の支配者たちを震え上がらせるために書かれたような、脅迫的なまでにパワフルな新世代讃歌。一般的には難解な歌詞だと言われているようだが、やや過剰防衛気味の新世代讃歌として解釈すれば、その意味は明確。
09THE LONESOME DEATH OF HATTIE CARROLL
黒人女性ハッティ・キャロルが白人青年ウィリアム・ザンジンガーによって殴り殺された1963年の事件を基に書かれた曲。人種差別や不平等に対する怒りだけではなく、ディランはここで人間としての深い悲しみを表明している。時代を超えた名曲のひとつ。
10RESTLESS FAREWELL
自分を理解してくれない人々への訣別の歌。自由に爪弾いたアコギの響きをバックに、あらゆる人々への別れの言葉が饒舌に語られている。「私は断固として私であり続け、別れを告げ、勝手にやる」という最後の一節はディランのロック宣言でもある。