ガイドコメント
1962年に発表されたデビュー・アルバム。趣向をこらした多彩なギター奏法はもちろん、ディランのヴォーカルの表現力の豊かさ、ブルース・シンガーとしての魅力を楽しめる1枚。
収録曲
01SHE'S NO GOOD
黒人フォーク歌手、ジェシー・フラーの代表曲をカヴァー。若々しく性急な歌唱がディランの鋭い野心を感じさせる。勢いだけかといえばそんなことはなく、マウスハープのソロも含めて、シンガー/パフォーマーとしての技術がしっかりしたものであることは明らか。
02TALKIN' NEW YORK
心の師ウディ・ガスリーのトーキング・ブルースのスタイルを借りたオリジナル曲。NYにやって来てからの自身の体験とNYCについてのコメントを、アコギの伴奏に乗せて語りまくる。今風にいえばラップに近い。十八番のマウスハープのソロも楽しい。
03IN MY TIME OF DYIN'
カントリー・ゴスペル歌手ブラインド・ウィリー・ジョンソンの名曲をカヴァー。ライヴでの豊富な経験を感じさせるブルージィな歌声の若きディラン。スライド・ギターの腕前はいまひとつだが、黒っぽいアプローチは彼の音楽的素養の幅を強烈にアピールしている。
04MAN OF CONSTANT SORROW
アメリカ民謡を基にしたフォーク・ソングだが、ディランはメロディを大胆に書き換えている。早くもディランならではのフレージングが駆使されているところが凄い。のちのフォーク・ロック時代にも繋がる、ディランのオリジナリティが垣間見れる最初期の名演。
05FIXIN' TO DIE
のちにツェッペリンもカヴァーしているブルース歌手、ブッカ・ホワイトの名曲。フォーク/カントリーのスタイルをベースにしたブルースは実際にはあまり黒っぽくはないが、ブルース歌手を演じようと試みる彼の歌声には独特の熱気がある。
06PRETTY PEGGY-O
アパラチア山脈に伝わる民謡をディラン流にリメイク。ジョーン・バエスの名唱で知られる美しい「フェナリオ」と同じ曲だとは思えぬほど土臭いヴァージョンだ。よく知られた名曲を独自の解釈で再生(あるいは破壊)するディランの手法は、最初期からなんら変わらない。
07HIGHWAY 51
クレジットされているカーティス・ジョーンズの同名曲よりも、むしろトミー・マクレナンの“New Highway No.51”に近いブルース曲。ディランのヴォーカルはややカントリー調だが、アコギのストロークはブルージィ。のちにディランは「追憶のハイウェイ61」を書く。
08GOSPEL PLOW
マヘリア・ジャクソンやピート・シーガーも歌っているセイクレッド・ソングをディラン流にリメイク。トレイン・ソングばりのリズムで、宗教歌とは思えぬほど速いテンポでプレイしている。けたたましいマウスハープも魅力だが、ロカビリー調のヴォーカルも楽しい。
09BABY, LET ME FOLLOW YOU DOWN
ディランもイントロで紹介しているように、ニューヨーク時代の盟友エリック・フォン・シュミット直伝のフォーク・ブルース。マウスハープをフィーチャーした演奏は適度にブルージィだが、シュミット譲りの知的なアプローチはフォーキーで、そこが最大の魅力といえる。
10HOUSE OF THE RISIN' SUN
白人ブルース歌手デイヴ・ヴァン・ロンクのアレンジを無断借用したと言われているが、ウディ・ガスリー在籍時のオールマナク・シンガーズのヴァージョンにも似ている。のちに大ヒットしたアニマルズのロック・ヴァージョンはここから生まれた、という説もある。
11FREIGHT TRAIN BLUES
カントリーの王様ロイ・エイカフのヴァージョンを下敷きにしたトレイン・ソングの名曲。陽気なマウスハープも、ファルセットを駆使した早口のヴォーカルも、若きディランがカントリー・スタイルで疾走する。初期のディランにはブルースよりもカントリーが似合う。
12SONG TO WOODY
敬愛するウディ・ガスリーに捧げたオリジナル曲。ウディの仲間だったシスコ・ヒューストン、サニー・テリー、レッドベリーの名前も登場するホーボー・ソング。92年10月の30周年記念コンサートでもディラン自身によって歌われた、最初期を代表する名曲。
13SEE THAT MY GRAVE IS KEPT CLEAN
ブルース歌手ブラインド・レモン・ジェファスンが遺した名曲をカヴァー。死期の近いブルース歌手を演じる若きディランの自意識過剰気味の歌声が楽しめる。20歳の若者がデビュー盤で歌う曲ではないだろうが、この手の自己演出はいかにもディランらしい。