ガイドコメント
オリジナル・メンバーであったキース・ムーン亡き後、元スモール・フェイセスのケニー・ジョーンズを新たに迎えて制作された81年発表作品の再発盤。ファンの賛否が分かれる1枚でもある。
収録曲
01YOU BETTER YOU BET
シンセサイザーのループとキャッチーなフックのコーラスから始まるシングル曲。キースに代わって参加したケニーのタイトなドラミングに乗って、ロジャーが成熟した歌声を披露している。歌詞には“T-Rex”と“Who's next”が登場する。全英9位のヒットを記録。
02DON'T LET GO THE COAT
AORのようなイントロから始まる曲。ラテン系のタッチもあって、ソフト&メロウなんて言葉が似合いそうな曲。ザ・フーらしくはないものの、これはこれで悪くない。当時のピートを悩ませていた離婚問題と導師ミハー・ババの教えが合体した歌詞も彼らしい。
03CACHE CACHE
アップ・テンポとミディアム・テンポが入れ替わるザ・フーらしい曲。ピートのギター・ソロとジョンのリード・ベースがイカしてる。比喩と寓意だらけの歌詞はドラッグ・ソングを想わせるが、ジョーク付きで陽気に歌われるせいで動物園の歌かと思う人もいるかも。
04THE QUIET ONE
いきなりヘヴィ・メタリックなジョンの曲。当時のピートの曲が抑制気味なので余計にハードに感じられるが、辛気臭い曲よりもずっといい。どうやら自分のことを歌っているようだが、独特のユーモアのセンスを感じさせる言葉の選び方はいかにも彼らしい。
05DID YOU STEAL MY MONEY
ファンク仕様というよりもむしろディスコ仕様に近い曲。タイトルを呟く声をパーカッションのように使う手も悪くはないが、あまり成功していない。“お前が俺の金を盗んだのか?”と執拗なまでに繰り返しているところを見ると、実話に基づく歌詞なのかもしれない。
06HOW CAN YOU DO IT ALONE
実話に基づいている物語風の歌詞が楽しいピートの曲。ピートのほうが似合いそうな曲だが、ヴォーカルはロジャー。トーキング・ブルース+キャッチーなフックのコーラスという構成だが、バグパイプ風サウンドのマーチが効果的に挿入されている。
07DAILY RECORDS
アルバム『フェイス・ダンシズ』の中で最もポップな曲のひとつ。シンセとコーラスをバックに、長い歌詞をロジャーが丁寧に歌唱。自伝的な告白や思索的な独白もあるが、“毎日のレコードを作りたい”というリフレインが何といっても胸に響く。
08YOU
ジョンが書いたハード・ロッキンな曲。『フーズ・ネクスト』収録の「マイ・ワイフ」を思わせる恐妻家の独白を描いた歌詞だが、ユーモラスな前者よりもリアルで切実な印象。ヴォーカルはロジャーで、ピートがワイルドなギター・ソロを披露している。
09ANOTHER TRICKY DAY
アルバム『フェイス・ダンシズ』の中では最もザ・フーらしい曲。ピートのパワーコードがバンドを先導し、ロジャーとピートのツイン・ヴォーカルが絡み合いながら歌っている。悲観的とも楽観的ともとれる歌詞だが、最終的にはポジティヴなメッセージを発している。
10I LIKE NIGHTMARES
『フェイス・ダンシズ』のアウト・テイク。ラビットのホンキートンク・ピアノをフィーチャーしたアーシーなロック・チューン。デモ・トラックだろうが、完成度は意外に高く、シンセサイザーが鳴り響く曲よりもずっとザ・フーらしいロック・サウンドが楽しめる。
11IT'S IN YOU
ミディアム・テンポのダウン・トゥ・アースなロックンロール。ザ・フーよりもむしろフェイセズに近いサウンドかもしれないが、当時のメンバー構成を考えれば、最も彼ららしいサウンドだともいえる。この手の曲でアルバムを作ったほうが……なんて思わせる1曲。
12SOMEBODY SAVED ME
ピートが3rdソロ・アルバムに収録した名曲のザ・フー・ヴァージョンは、ピートが歌う感動的なバラード。アルバム『フェイス・ダンシズ』のアウト・テイクだが、その他の収録曲より、メロディもサウンドも歌詞もずっと凝ったものになっている。
13HOW CAN YOU DO IT ALONE
79年12月8日、シカゴ公演でのライヴ録音。アルバム収録曲とはアレンジや歌詞が異なり、こちらはロックンロール・ヴァージョン。単調なサウンドだが、バンドの演奏にも活気があるので、ライヴではこちらのほうが活きているようだ。
14THE QUIET ONE
82年10月13日、シェア・スタジアムでのライヴ録音。ハード・ロッキンな演奏がイカしてる。ジョンのリード・ベースに対抗して、ピートもギターを弾きまくっている。オリジナル版のほうがモダンなサウンドだが、ライヴならではのノリは圧倒的にパワフル。