ガイドコメント
オリジナルは74年にリリース。ザ・フーのちょっと変わった編集盤。発表時の未発表作品集に、未発表音源/ヴァージョンを12曲追加。録音年はバラバラだが、彼らのライヴはやっぱり圧巻。
収録曲
01I'M THE FACE
1964年にザ・ハイ・ナンバーズ名義で発売れた1stシングル曲。スリム・ハーポの「I Got Love If You Want It」を下敷きにした曲に、当時のマネージャーが書いた歌詞を乗せたもの。リーダーだったロジャーがタフな態度で歌い、マウスハープを吹いている。
02LEAVING HERE
1964年のハイ・ナンバーズ名義のデモ・トラック。エディ・ホランドのヒット曲をカヴァー。スタジオ録音に関してはまだ未熟だが、ライヴの熱気をそのままスタジオに持ち込んだような勢いは伝わってくるし、何よりも彼らは実に楽しそうに演奏している。
03BABY DON'T YOU DO IT
1964年のハイ・ナンバーズ名義のデモ・トラック。71年にも再録音しているマーヴィン・ゲイのヒット曲のカヴァー。再録版がハード・ロック・ヴァージョンだとしたら、こちらはブルース・ヴァージョン。生演奏の感触が伝わるリアルなサウンドが快感。
04SUMMERTIME BLUES
1967年のスタジオ録音ヴァージョン。エディ・コクランのカヴァーだが、『ライヴ・アット・リーズ』などで聴けるライヴ音源とほぼ同様のアレンジで、ハード・ロッキンな演奏が楽しめる。手拍子が時代を感じさせるが、それ以外は70年前後の感覚に限りなく近い。
05UNDER MY THUMB
1967年、ジャガー&リチャーズが麻薬所持で逮捕された時に、彼らを支援するためにカヴァーしたストーンズの曲。素直なカヴァーだが、ジェントルなコーラスも含めて、ザ・フーにしては穏やかなサウンド。ジョン不在のためピートがベースも弾いている。
06MARY ANNE WITH THE SHAKY HAND
1968年8月、ニューヨークで録音されたエレクトリック・ヴァージョン。アル・クーパーがオルガンを弾いているが、『セル・アウト』追加収録曲とは異なるテイク。ほぼ同様のアレンジだが、当然のことながら新たにリミックスされたこちらのほうがより洗練されている。
07MY WAY
エディ・コクランのカヴァー。1967〜68年にはライヴでも演奏されていたらしい。これは1967年11月のスタジオ録音ヴァージョンだが、98年までは未発表だった。オリジナルにほぼ忠実なカヴァー。ロジャーの“ロケンロール”なヴォーカルがイカしてる。
08FAITH IN SOMETHING BIGGER
1968年1月に録音されたが1974年まで未発表だったピートのオリジナル曲。ピートが神への信頼を表明した最初の曲だとも言われている、崇高なムードのバラード。「デカいもの」が神かどうかはともかく、「俺たちの中の……」と歌っているところが彼らしい。
09GLOW GIRL
ピートが書いた飛行機事故の歌。『トミー』収録曲を思わせるフォーク・ロック調のサウンドで、終盤には「イッツ・ア・ボーイ」のメロディと歌詞(“boy”ではなく“girl”)が登場する。『セル・アウト+10』収録曲と同じリミックス/リマスター版だが、CMは入っていない。
10LITTLE BILLY
1968年に録音されたアンチ煙草ソング。ザ・フーにしては健全すぎるくらいの曲調のポップ・ソング。米国癌協会のキャンペーン・ソングとして作られた曲だが、喫煙者が順番に死んでいく辛辣な歌詞が問題になったようで、結局使われなかった。
11YOUNG MAN BLUES
『ライヴ・アット・リーズ』でおなじみのモーズ・アリスンのカヴァー曲のスタジオ・ヴァージョン(1968年10月録音)。ライヴ・ヴァージョンよりもテンポが遅く、ギター・ソロも短い。基本的なアレンジはほとんど変わらないが、ライヴより落ち着いた演奏が聴ける。
12COUSIN KEVIN MODEL CHILD
『トミー』収録のジョンの曲「従兄弟のケヴィン」の原型。トランペットをフィーチャーしたシャッフル・ビートのロックンロール。曲調も歌詞も異なるが、従弟を虐待するところは同じ。これはこれで充分に面白いが、『トミー』には似合わないかもしれない。
13LOVE AIN'T FOR KEEPING
『フーズ・ネクスト』収録の同題の曲のエレクトリック・ヴァージョン。前者よりも2ヵ月早い71年3月のニューヨーク録音。いわゆる『ライフハウス』セッションの1曲だ。ヴォーカルはピートで、歌詞も少し異なる。レスリー・ウェストがギターで参加している。
14TIME IS PASSING
ピートの初ソロ・アルバム『フー・ケイム・ファースト』収録曲のザ・フー・ヴァージョン。71年3月、ニューヨークでの『ライフハウス』セッションで録音された。カントリー・ロック調のセミ・アンプラグドなサウンドで、ロジャーの力強いヴォーカルが印象に残る。
15PURE AND EASY
71年5月の再録音ヴァージョン。『ライフハウス』の“失われた音”についての物語をモチーフにした屈指の名曲。歌詞もメロディもサウンドも完璧に近いが、ギター・ソロも秀逸。ピートが歌ったヴァージョンは彼のソロ・アルバム『フー・ケイム・ファースト』で聴ける。
16TOO MUCH OF ANYTHING
幻の名盤『ライフハウス』に収録されるはずだった曲。ピートが歌うカントリー・ロック調の劇的なバラードは、人間の欲望についての思索的な歌詞が秀逸。それに合わせて、ピアノのニッキー・ホプキンスが印象的なプレイを披露している。
17LONG LIVE ROCK
ザ・フーの過去のエピソードを散りばめたタフなロックンロール。『四重人格』の原型のひとつでもある。キースが出演した映画『マイウェイ・マイラブ』(1974年)挿入曲でもあり、ビリー・フューリーが歌うそのヴァージョンにはキースとピートが参加している。
18PUT THE MONEY DOWN
幻の名盤『ライフハウス』に収録されるはずだった曲のひとつ。ダウン・トゥ・アースなロック・サウンドに乗って、水や金やバンドやヒーローが登場する意味深長な歌詞が歌われる。『フーズ・ネクスト』には収録されず、『オッズ・アンド・ソッズ』で陽の目を見た。
19WE CLOSE TONIGHT
72年6月に録音された『四重人格』のアウトテイク。キースの長めのフィル・インから始まる賑やかなロック・チューン。ピートの曲だが、主に歌っているのはジョンとキース、という珍しいパターン。彼女をモノにするために嘘をつく童貞を描いた歌詞が面白い。
20POSTCARD
ホーン・セクションをフィーチャーしたジョンの曲。ドイツ、イタリア、アメリカ、オーストラリアでのコンサート・ツアーの日々を皮肉っぽく描いた、擬似絵ハガキ仕様の歌詞がジョンらしい。歌詞に合わせて挿入されるSEも笑えるが、やや控えめなのが惜しい。
21NOW I'M A FARMER
企画倒れになったEP盤に収録されるはずだった曲。ピアノをフィーチャーした狂騒的なロックンロールだが、美しいコーラスやボードヴィル調のパートが頻繁に挿入される。農業の素晴らしさを称えているように見せかけた皮肉っぽい歌詞がおかしい。
22WATER
シングル「5:15」B面収録曲。ロジャーの焼けつくような歌声が耳に残るザ・フー流ゴスペル・ソング。当初は『ライフハウス』に収録されるはずだった。“水”は精神的な渇きを癒す何かの比喩らしい。“water”と“daughter”で韻を踏むフックがイカしてる。
23NAKED EYE
ザ・フーにとって重要な曲のひとつ。寓話的な歌詞を持つドラマティックなバラード。ロジャーとピートがヴォーカルをシェアし、ピートは饒舌なギター・ソロも披露している。70〜71年のライヴでは定番曲であり、ライヴ音源は『フーズ・ネクスト+7』に追加収録。