ガイドコメント
ロックンロールという言葉が持つイメージの化身であったかのようなドラマー、キース・ムーンの遺作となった78年発表作品のリマスター、再発盤。ボーナス曲は当時の未発表ミックスが収録。
収録曲
01NEW SONG
「本当に新しい歌が必要なのかい?」という疑問を聴き手に投げかけるピートの曲。ロジャーのヴォーカルは快調で、シンセサイザー主体のサウンドも悪くはないが、キースの不調が痛い。「僕らは新しい瓶で古い酒を呑む」という歌詞の一節がピートらしい。
02HAD ENOUGH
シンセサイザーを全面的に導入したジョンの曲。ストリングス仕様のシンセサイザーをバックに、「もう沢山だ」から「世界の終わりだ」まで、徹底的に悲観的な歌詞をロジャーがパワフルに歌ってみせる。よく練られたフックのコーラスが美しい。
03905
“905”という名のクローン人間の独白、というSF的な設定のジョンの曲。クローン人間に扮したジョンが淡々とした歌声でシンプルなメロディを歌う。シンセサイザー主体の音作りにも必然性がある。78年に「マニアの受難」的な歌詞を書いた先駆性も評価したい。
04SISTER DISCO
異なる曲調のパートを合体させたザ・フーらしいミニ組曲。ヴォーカルはロジャーだが、ピートが歌うバラード・パートが良い。ストリングス仕様のシンセサイザーが多用されているが、ピートのギターが活躍する場面も多く、終盤にはアコギのソロも披露している。
05MUSIC MUST CHANGE
珍しくジャジィなピートの曲。変拍子に対応できず、ピートはドラムスを叩いていない。「音楽は変わるに違いない」「音楽は開かれた扉だ」と歌うピートはパンク・ロックへの共感を表明しているようだが、この複雑な曲がパンクスには理解できただろうか?
06TRICK OF THE NIGHT
売春婦との一夜を描いたジョンの曲。ジョンの8弦ベースが唸りを上げるハード・ロッキンな曲で、ロジャーが歌っている。情けない男の独白だが、この歌詞が何かの比喩ではないとしたら、情けない男が登場するブルース・クラシックの現代版を狙ったのだろうか?
07GUITAR AND PEN
妙に気取ったオペラ調サウンドとコミカルなボードヴィル調サウンドが共存するミニ組曲。ロジャーのオペラ風ヴォーカルやピートのギター・ワークが堪能できる。歌詞は少年時代のピートを描いた自伝的な内容だが、若者へのメッセージとしても捉えられる。
08LOVE IS COMING DOWN
ストリングス仕様のシンセサイザーが鳴り響く劇的なバラード。チャンスを活かせないポップ・スターの独白をロジャーが朗々と歌い上げる。フックにはユーモラスなニュアンスもあり、全編が喜劇であるかのようにも思えるが、ロジャーの歌声はあくまでもシリアス。
09WHO ARE YOU
70年代のザ・フー・サウンドを集大成したような曲。シンセサイザーのループにアコギのソロが絡み、コーラスが「お前は誰だ?」と問い続ける。ピートの実体験を基にした歌詞が、成熟したロック・スターの悲喜劇をリアルに描き出している。
10NO ROAD ROMANCE
突然の死を迎える5ヵ月前、78年4月に録音されたキースが歌うメロディアスなバラード。とりわけ「ツアーにはロマンスなんてない」というフックのメロディは美しい。当時、すでに満足にドラムスを叩けない状態だったキースだが、この歌声は貴重な記録だ。
11EMPTY GLASS
80年にはピートの同題の2ndソロ・アルバムに収録される名曲のザ・フー・ヴァージョン。78年4月に録音されたもので、当時のタイトルは「Choirboy」。ラフ・ミックスのデモ・トラックだが、完成度は高く、19年間も未発表だったことが信じられない。
12GUITAR AND PEN
オリジナル・アルバム収録曲「ギター・アンド・ペン」の別ミックス・ヴァージョン。ピートのギターをより前面に出したミックスだから、このヴァージョンのほうがザ・フーらしい。オリジナル・ヴァージョンよりもこちらを支持するファンも多いかもしれない。
13LOVE IS COMING DOWN
レコーディングのプロセスが追体験できる未完成ヴァージョン。ピアノとベースのプレイが完成版とは異なり、ロジャーの歌も仮歌だが、完成版よりもサウンドの細部が鮮明なので、この曲がどのように作られていったのかがよくわかる。
14WHO ARE YOU
オリジナル・アルバム収録曲とは2ndヴァースの歌詞が異なる別ヴァージョン。60年代のピート自身を戯画化したような歌詞だから、ファンにとってはこちらのほうがうれしいかもしれない。ピートのヴォーカルもよりパワフルに響くのは気のせいか。