ミニ・レビュー
フォリナーのミック・ジョーンをプロデューサーに迎え、原点のロックンロール的なものへと回帰を目指したアルバムをつくっている。詞はビリーの私小説に近い内容のものだが、やる気だぜと感じさせてくれる。40歳の男なりに素直にがんばっている快作。
収録曲
01THAT'S NOT HER STYLE
ホーン・セクション、コーラス、ハーモニカが高らかに鳴り響くミディアム・テンポのロック・チューン。贅沢三昧の有閑マダムなんて彼女のスタイルじゃない、という歌詞は(当時の)愛妻クリスティをかばうためのものだった、という説もあった。
02WE DIDN'T START THE FIRE
さまざまなSEを挿入したタイトなロック・ビートに乗って、ビリーがラップ調のヴォーカルを披露するポップ・ソング。彼が生まれた1949年〜89年までの国際的な事件や著名人の名前などを列挙した、年表仕様の歌詞も話題になった全米No.1ヒット。
03THE DOWNEASTER "ALEXA"
ビリーの愛娘の名を冠したダウンイースター“アレクサ”の船長を主人公にした歌。変則的なリズム・パターンと劇的なサウンドをバックに、海の男の生活と意見をビリーが歌う。家長としてのビリー自身の当時の決意を歌ったものだ、という説もある。
04I GO TO EXTREMES
極端に走るタイプの男の独白を歌ったミディアム・アップのロック・チューン。中庸という選択肢を持たない主人公が作者ビリーの分身かどうかはともかく、そういった傾向が垣間見られる曲。だからこそ面白いとファンは思ってしまうのだが。
05SHAMELESS
R&B調のラブ・バラード。あまりにも手放しのラブ・ソングで、聴いているほうが恥ずかしくなってしまうが、なにしろ自分で“Shameless(恥知らず)”だと歌っているのだから、どうしようもない。ビリーが極端に走るタイプであることを確信させるナンバー。
06STORM FRONT
メンフィス・ホーンズと混声コーラス隊をフィーチャーしたファンク調のR&Bサウンドをバックに、安全な港から荒海へと向かう船長の独白をビリーが雄々しく歌う。ラジオ警報をフックの歌詞にした発想も楽しいが、何よりもポジティヴな前傾姿勢が良い。
07LENINGRAD
87年にビリーがソ連を訪れたときの体験から生まれた曲。ピアノとストリングスをフィーチャーした美しいバラード。ビリーの淡々とした歌い方が良い。マッカーシズムやキューバ危機などを背景に、国境を越えた真の友情を半自伝的なタッチで描いている。
08STATE OF GRACE
教会音楽風のオルガンから始まる曲。タフなロック・ビートに乗った力強いラブ・ソングだが、彼女に主導権を握られている男の立場から歌われている。彼女は常に自分に「有利な状態」を維持しているが、ここでは男がそれを受け容れているところが新しい。
09WHEN IN ROME
60年代テイスト満載のヴォーカルとサウンドが心地よい、ビリーらしいR&B調の曲。ファッション・モデルと結婚したら…… というビリーの私生活も想像させる歌詞も楽しいが、何よりもソウル・フィーリング全開で歌いまくる彼のヴォーカルが素晴らしい。
10AND SO IT GOES
明晰なピアノと流麗なストリングス、そして、淡々としたビリーの歌声が美しいラブ・バラード。比喩や寓意だらけの曖昧な歌詞の本当の意味は作者以外にはわかり難いものだが、それでも彼がそこに込めた想いのニュアンスは充分に伝わってくる。