ミニ・レビュー
ビリー・ジョエルを世界的に有名にした『ピアノ・マン』がCD化。シンガー・ソング・ライターとしてのジョエルのポリシーを確立した名作。ビリーは、音楽評論の仕事をしながらずっと作曲の研究を続けていたようだ。
収録曲
01TRAVELIN' PRAYER
アルバム『ピアノ・マン』巻頭を飾る1曲。やや変則的なカントリー調の編曲が施されている。ビリーの歌声やピアノと張り合うバンジョーやフィドルを効果的に駆使した過剰なアレンジは、さすがマイケル・オマーティアン。最後の駄目押しも彼らしい。
02PIANO MAN
ビリー・マーティンとして実際にカリフォルニアのピアノ・バーに出演していた時の思い出や情景を切なく唄った1973年発表の名曲。三拍子のリズムでのピアノの弾き語りとともに聴こえるハーモニカが哀愁を感じさせる。
03AIN'T NO CRIME
ゴスペル調のバラード。エルトン・ジョンを連想しないわけにはいかないタイプの曲だが、前作まではあえて避けていたはずの作風に挑戦したところにビリーの本気が感じられる。歌唱法やアレンジも含めて、まさに真正面からの挑戦。出来が悪いわけはない。
04YOU'RE MY HOME
アンプラグドなサウンドが心地よいラブ・バラード。「僕には君が必要だ/何故なら君は僕の故郷だから」という歌詞はややクサいが、爽やかなアコースティック・サウンドで歌われると「なるほど」と思わされる。当時の愛妻エリザベスにプレゼントした曲。
05THE BALLAD OF BILLY THE KID
西部劇映画の世界を見事に音楽化したポップ・ソング。やたらに凝ったイントロも含めて、映画音楽ばりにゴージャスなオーケストレーションが堪能できる。若く勇敢で孤独なビリー・ザ・キッドを描いた歌詞も良いが、真摯なヴォーカルも秀逸。
06WORSE COMES TO WORST
“ラテン調の”というよりもむしろ“ヒスパニックな”と言うべきかもしれない、エキゾティックな編曲を施されたポップ・ソング。ラリー・カールトンらによる洗練されたフュージョン・サウンドが心地よい。妙な小細工のないビリーの真っ直ぐなヴォーカルも良い。
07STOP IN NEVADA
ドラマティックなオーケストレーションを施された離婚の歌。妻が夫に一通の手紙を残してネバダへと旅立つという、それだけの歌だが、過剰なまでに劇的な編曲のせいで、もっと大変な事件かと思わされる。過剰な演出はビリーの得意技のひとつ。
08IF I ONLY HAD THE WORDS (TO TELL YOU)
歌詞以外はストレートなラブ・ソング。ピアノとストリングスで真正面から歌い上げる直球型のバラードだが、「もしも君に伝えるための言葉を持っていたら……」という歌詞は明らかに変化球。ビリー・ジョエル版の「Silly Love Songs」とも言えるかもしれない。
09SOMEWHERE ALONG THE LINE
セーヌの岸辺から始まるバラード。お洒落なラブ・ソングかと思ったらシビアな人生訓の唄だった。ここでの教訓は「楽しいことはいつまでも続くわけじゃない」。ピアノとストリングスを配した劇的な曲調を愛するファンは多いだろうが、歌詞はそれほど甘くはない。
10CAPTAIN JACK