ミニ・レビュー
NYにしろロスにしろ街には心優しい友だちがたくさんいて苦労と友情をわかちあっている。東京や大阪も同じだ。大都会を愛するジョエルの思い入れがますます強く感じられる「大都会の吟遊詩人」の心優しいアルバム。
収録曲
01SAY GOODBYE TO HOLLYWOOD
02SUMMER, HIGHLAND FALLS
ハリウッドに別れを告げたビリーが、ハイランドフォールズで書いた曲。自分がどんな時代に生きているのかについて考えた歌詞は、ネガティヴでもポジティヴでもなく、ひたすら明晰。こんなポップ・ソングがあってもいいじゃないか、という発想の産物か。
03ALL YOU WANNA DO IS DANCE
古き良き時代のロックンロールを偏愛する相手に「もうパーティは終わったんだよ」と告げる曲。擬似レゲエ調のリズムにマリアッチなスティール・ドラム。ビートルズ風のコーラスも登場する。音楽的イタズラが目立つ曲だが、これができるミュージシャンは信用できる。
04NEW YORK STATE OF MIND
ビリーの自伝的な曲のひとつ。ジャジィなニュアンスもあるR&Bサウンドがニューヨーク的。ハリウッドも悪くはないが、僕はやはりニューヨークが好きなんだ、という歌詞にもリアリティがある。ヒット曲ではなかったけれど、のちに多くのカヴァーを生んだ名曲。
05JAMES
ヴィブラフォンの音色が美しいバラード。幼馴染みのジェイムズに「自分の人生を気に入ってるかい?/生き方を変えてみないか?」と語りかける歌詞がいい。自伝的な要素も見え隠れしている。ミュージカル『ムーヴィン・アウト』でも使われていた。
06PRELUDE/ANGRY YOUNG MAN
得意の速弾きピアノをフィーチャーした長いイントロから始まる曲。性急なリズムに乗って“怒れる若者”への共感と皮肉が歌われる。ミュージカル・ナンバーのようなタイトルだが、のちにブロードウェイ・ミュージカル『ムーヴィン・アウト』で実際に使われた。
07I'VE LOVED THESE DAYS
贅沢な暮らしに別れを告げるバラード。未練はあるが、生活を変えなければ…… という歌詞にはリアリティがある。“贅沢な暮らし”を象徴しているような、ストリングスやホーン・セクションを駆使したゴージャスなサウンドも、この曲に似合っている。
08MIAMI 2017 (SEEN THE LIGHTS GO OUT ON BROADWAY)
ニューヨークが壊滅してしまう近未来を描いた歌。語り手は2017年のマイアミにいるようだ。大雑把に言えば『日本沈没』のニューヨーク版。失われた街への郷愁の念が伝ってくるメロディとサウンドは、『ニューヨーク物語』のクロージング・テーマにはふさわしい。