ミニ・レビュー
歌の中の情景がメロディとサウンドによってリアリティを得ていたユーミンも、時代の気分に追いつかれ、情景の描き方が変って久しい。それでも、リアリティは回復しないままです。といっても、ユーミンのこれまでの作品の中での話でしかないが。
収録曲
01Holiday in Acapulco
傷心の旅をテーマにしたポップ・チューン。“hum hum”というハミング部分はサウンド的には陽気だが、傷ついた心から立ち直ろうとする健気さがにじみ出ていて、かえって涙を誘う。ユーミンのセンスの良さに脱帽。
02ジェラシーと云う名の悪夢
嫉妬とビデオをテーマにした重めのナンバー。彼を信じていた頃への巻き戻しも、乗り越えるであろう未来への早送りもできない現実の苦しみを切に訴える。“ジェラシー”だと響きが軽いが、この曲の中では心の叫びに近い。
03パジャマにレインコート
シングル「メトロポリスの片隅で」のカップリング曲。恋人同士の離れていく心を歌ったメランコリックなナンバーで、黙ること自体が嘘になるなど、ユーミンらしい本質を突いた文言が並ぶ。長めのエンディングが余韻を残す。
04白い服、白い靴
6/8拍子基調の静かなナンバー。かつての恋人と秘密裏に会う約束をしてしまったヒロインが、最後に嘘を言ってまで約束を断る恋歌で、その理由が謎のまま終わるのが本曲の魅力。1篇の小説が書けそうなほど深い1曲。
05土曜日は大キライ
86年発表のアルバム『アラーム・アラ・モード』に収録された、心躍るパーティ・チューン。当時、絶大な人気を誇ったTV番組『オレたちひょうきん族』のエンディング・テーマとしても知られている。
06ホライズンを追いかけて〜L'aventure au desert
ユーミンがチームを作るほど好きだった“パリダカ”をテーマに書いたナンバー。灼熱の大地を突き進んでゴールを目指す熱い闘いをドラマティックに描く。Bメロから次第に上昇してサビに至るまでの展開が聴きどころ。
07Autumun Park
壮大な愛のバラード曲。舞台は秋の公園のボートの上だが、テーマは、生まれ変わっても“あなたを探してる私を見つけて”といった極めてスケールの大きい愛。ユーミンのロマンティシズムの極みともいえるナンバーだ。
0820 minutes
デートの待ち合わせ場所を舞台にしたコミカルなナンバー。ギャグ漫画にも通じる痛快なストーリー展開が魅力。印象的なギターのカッティングをはじめ、随所にやり過ぎともいえるユニークなアレンジが施されている。
093-Dのクリスマスカード
ユーミンのメルヘンチックな魅力が際立つキュートなナンバー。1番では夢の家を、2番では恋人との夢を描く。静かでシンプルなAメロと賑やかでキャッチーなサビなど、メリハリのある曲構成が聴き手を飽きさせない。
10さよならハリケーン
アルバムのラストを飾るハード&ポップ・ロック。激しい口調のお別れソングで、ハリケーンのような荒々しい勢いを以て恋人に決別を告げる。中高音域でのパワフルなヴォーカルや終盤の斬新なアレンジが聴きどころ。