ミニ・レビュー
『ストレンジャー』は'78年グラミー賞でレコード・オブ・ジ・イヤーとソング・オブ・ジ・イヤーに輝いた、ビリー初のプラチナ・アルバムで500万枚を超すセールスを記録した。シンガー&コンポーザーとして大成功を収めた彼は、'80年にシンプルなロック・マインドを前面に出した『グラス・ハウス』を発表。その後、'82年の『ナイロン・カーテン』ではビートルズ色を強め、'83年の『イノセント・マン』では'50〜'60年代ポップスへの憧れをモチーフにするなど、自己のルーツへのアプローチを続けた。ニューヨーク出身の彼らしく、大都会の人間模様をうまく描写している。
収録曲
01MOVIN' OUT (ANTHONY'S SONG)
ビリー・ジョエル・サウンドの存在を最初に証明してみせた曲。ひと言でいえばウイングス・サウンドのニューヨーク版だが、これがビリーのコロンブスの卵だった。アンソニーやオリアリー軍曹の生活を描きながら、「僕は抜けるよ」とクールに言い放つ歌詞も彼らしい。
02THE STRANGER
03JUST THE WAY YOU ARE
ジャジィなイントロが泣かせる初期の名曲。イーグルスのニューヨーク版と言えないこともないR&B調のサウンドは、ビリーのコロンブスの卵のひとつ。自分の中の他人を描いた歌詞も良い。米国ではシングルにもならなかったが、日本では大ヒットという構図も面白い。
04SCENES FROM AN ITALIAN RESTAURANT
バラードからロックンロールまで、異なる曲調を1曲に詰め込んだミニ・オペラのような曲。イタリアン・レストランでの久しぶりの再会からブレンダとエディのロマンティックな10代の日々が物語風に回想され、最後には再びイタリアン・レストランに戻る展開が絶妙。
05VIENNA
生き急ぐ若者たちへの助言を歌ったバラード。アコーディオンが効果的に使われている。「ウィーンは君を待っている」というフックの印象的な一節は、“年齢を重ねることを恐れる必要はない”という意味。20代の間にこれに気づくことができる人は少ない。
06ONLY THE GOOD DIE YOUNG
サックスのソロをフィーチャーした、カリプソ調の陽気なサウンドが楽しいポップ・ソング。「若死にするのは善人だけ」という決まり文句でカトリックの少女ヴァージニアを口説く歌詞も良い。「聖者と一緒に涙を流すよりも罪人と一緒に笑いたい」という一節が秀逸。
07SHE'S ALWAYS A WOMAN
08GET IT RIGHT THE FIRST TIME
ラテン系のタッチも感じさせる、洗練されたフュージョン・サウンドが印象的なポップ・ソング。“最初が肝心”だと思い込んでいる若い男が、意中の彼女との最初の出会いについて語る歌。青春時代の自分を思い起こせば、主人公の気持ちは理解できるはず。
09EVERYBODY HAS A DREAM
フィービ・スノウ、パティ・オースティン、グウェン・ガスリーらによるクワイアを従えて、ビリーが歌い上げるゴスペル調のバラード。どこまでが夢なのか、わかりづらい曖昧な表現が巧い。そして最後に「ストレンジャー」のイントロのピアノと口笛が再び繰り返される。