ミニ・レビュー
謎解きの楽しみを与えてくれたビートルズの冗談音楽アルバムだ(20年間考えた結論です)。漫画家ホフヌングの冗談音楽祭を楽しんでいる英国人の二重・三重に皮肉な感性をこのアルバムで見た。謎解きの解答はこのCDで半分出たが、その意図はまだ謎だ。
ガイドコメント
ロック史初の“コンセプト”アルバム。アイディアと技術の集大成は、もはや誰にも再現不可能なほどの作品といえるだろう。1967年6月発表、22週連続全英1位を獲得した。
収録曲
01SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND
観衆のざわめきを切り裂くサイレンのようなリード・ギターに先導されて、“ペパー軍曹の楽団”が登場する。バンド・サウンドはヘヴィだが、ホーンズが加わることで現実感は稀薄化し、巧みな編集が聴き手を夢の世界へと誘う。
02WITH A LITTLE HELP FROM MY FRIENDS
リンゴ演じるビリー・シアーズが歌うバラードの名曲。「友達の助けを借りてハイになる」という歌詞からドラッグ・ソングではないかと批判されたが、リンゴの歌声はあくまでも平常心。この曲のベース・ラインはポップ史上に残る名演だ。
03LUCY IN THE SKY WITH DIAMONDS
“ダイヤモンドのルーシーは空の上”というジョン・レノンによる幻想的なポップ・ナンバー。三部構成によるもので、曲の途中でインドの楽器シタールが被さってくるといった、東洋風の味付けがサイケデリックだ。
04GETTING BETTER
ポールが歌うポップなメロディの背後で転換を繰り返す変則的なリズム・アレンジが面白い。ポールのヴォーカルとコーラスとの絡みも絶妙。楽観的なポールの音楽性が主体だが、辛口のジョンの発想が香辛料の役割を果たしている。
05FIXING A HOLE
ポールが書いた秀逸なバラード。ハープシコードを使ったサウンドもポールらしいが、ルイス・キャロルの言葉遊びを連想させる歌詞も面白い。ジョージが奏でるリリカルなギター、ハイハットを多用したリンゴの繊細なドラミングなども聴き逃せない。
06SHE'S LEAVING HOME
新聞に掲載された家出少女の話を基にポールが書いた曲。世代間のギャップを描いた歌詞はジョンが貢献し、重要なコーラス・パートも担当している。ハープを含むストリングスが描き出すサウンドは美しいが、マイク・リーンダーのスコアはややトゥー・マッチか。
07BEING FOR THE BENEFIT OF MR. KITE!
古いサーカスのポスターに刺激されてジョンが書いた曲。レトロ調のサウンドに乗って、ジョンがサーカスの馬鹿げた謳い文句を物語るように歌う。蒸気オルガンの音を録ったテープの断片を再構成し、さらに逆回転で再生したSEが効果をあげている。
08WITHIN YOU WITHOUT YOU
ポップ・ソングにインド音楽の要素を導入したジョージの曲。シタール、タブラ、ソードマンデルなどのインド民族楽器アンサンブルにストリングスを加えた神秘的なサウンドが、ジョージの歌声と融合し、独自のサイケデリックな世界を描き出す。
09WHEN I'M SIXTY-FOUR
ポールが書いたボードヴィル調のポップ・ソング。彼が16歳の時に書いた曲に、父親が64歳になった66年にサビを付け加えた。3本のクラリネットがレトロな雰囲気を演出している。さらにミックスの段階でテープの速度を上げ、喜劇的なタッチをより強調。
10LOVELY RITA
音楽的ジョークを詰め込んだポール主導のポップ・ソング。パーキング・メーターをチェックする婦人警官(meter maid)の記事からヒントを得て書いた歌詞も愉快だが、クシとトイレットペーパーを利用した擬似カズーなど、ナンセンスなSEを満載したサウンドも楽しい。
11GOOD MORNING GOOD MORNING
鶏の鳴き声から始まるジョンの曲。都市生活者の日常の悪夢を描いた歌詞が辛辣。執拗に繰り返される“Good Morning”コーラスが語り手を脅かし、意地悪なホーンズがやかましく鳴り響き、短気なリード・ギターがヒステリックに泣き喚く。
12SGT. PEPPER'S LONELY HEARTS CLUB BAND
“ペパー軍曹のショー”を締め括るために再び演奏されるタイトル曲。加工されたオープニングのヴァージョンよりもライヴに近い一発録りの演奏。架空のバンドによる夢物語を描いたアルバムの中では最もリアルなバンド・サウンドを堪能できる。
13A DAY IN THE LIFE
名盤『サージェント・ペパーズ〜』の最後を飾るダイナミックな大曲。ジョン・レノンとポール・マッカートニーが作った歌をつなぎ合わせ、さらにオーケストラを使って徐々にキーをあげてゆき、最後にピアノの強打で終わる。