[Disc 1]
01BACK IN THE U.S.S.R.
チャック・ベリーの名曲のパロディだが、単なるR&Rに終わらせない工夫はさすが。ポールはピアノ、ギター、ドラムスと大活躍。ビーチ・ボーイズ風のコーラスも効いている。ソ連の人気バンドが全米ツアーを終えて本国に凱旋する、という設定の歌詞も痛快。
02DEAR PRUDENCE
ジョンがインド滞在中に書いた曲。同時期にインドを訪れていた女優ミア・ファーロウの妹プルーデンスの名を借りて、心を閉ざした女性に優しく語りかけるバラード。一時的に脱退していたリンゴに代わって、ポールがドラムスを叩いている。
03GLASS ONION
ビートルズの曲を戯画化してみせたジョンの曲。当時のビートルズならではの強靭なバンド・サウンドが聴ける。不穏なストリングスも効果的。ポールを揶揄したような歌詞もあるが、トレブルを効かせたベースやリコーダーなどでポールも貢献している。
04OB-LA-DI, OB-LA-DA
通称“ホワイト・アルバム”こと『ザ・ビートルズ』に収録。カリブ海を思い出させる、カリプソ風でテンポ・アップして喧騒的になったリズムに、ブラス・セクションをまじえた楽天的なメロディによるナンバー。
05WILD HONEY PIE
録音の合間のポールの悪戯を楽曲化した1分足らずの作品。すべての楽器をポールが演奏し、ヴォーカルも一人で多重録音。ビーチ・ボーイズの「ワイルド・ハニー」とポールの「ハニー・パイ」を合体させた題名だが、特に意味があるわけでもない。
06THE CONTINUING STORY OF BUNGALOW BILL
インドでの瞑想中に突然、虎を撃ちに行った男がいた、という実体験から生まれた曲。ジョンが昔話を語るように歌う。わらべ歌のようなサビのコーラスも楽しい。ヨーコも一部でヴォーカルを受け持ち、コーラスにも参加。クリス・トーマスがメロトロンを弾いている。
07WHILE MY GUITAR GENTLY WEEPS
ジョージの出世作。トラッド・フォークからの影響をうかがわせる劇的なコード進行と美しいメロディの名曲。親友エリック・クラプトンが見事なギター・ソロを披露している。ジョージの繊細な歌声も魅力的だが、それに寄り添うポールのハーモニーも効果的。
08HAPPINESS IS A WARM GUN
三つの曲を繋ぎ合わせたミニ組曲。三つの異なる曲調に合わせて、ジョンの歌声も変化する。ヴォーカルとギターとドラムスの拍子がズレる変則的なリズムも面白い。「発砲した直後の温かい銃」はドラッグやセックスの比喩でもあり、さまざまな解釈が可能。
09MARTHA MY DEAR
シャッフル・ビートに哀愁のメロディを乗せたポールの曲。イントロのピアノからすでにポールならではの世界。変拍子を使いながらも、ひたすらポップでメロディック。ジョージ・マーティン編曲のホーンズとストリングスにも過不足がない。
10I'M SO TIRED
ヨーコ抜きでドラッグ抜きのインドでの日々を罵るジョンのブルース。タイトなバンド・サウンドに乗って、気だるい呟きから狂気の雄叫びまで、多重人格的に変化するジョンの歌声が楽しめる。ポール死亡説の根拠のひとつになった曲でもある。
11BLACKBIRD
バッハの音楽に刺激されてポールが書いたバラード。聴く者の耳を捉える流麗なメロディ、視覚的イメージを伴った歌詞、生ギターの鮮やかなピッキング、そして鳥のさえずり。黒人女性を歌った曲とポールが語ったフォーキーな名曲。
12PIGGIES
特権階級の偽善者たちを揶揄したジョージの曲。上品なバロック調のサウンドに乗せて「豚どもがベーコンを喰っている」と歌う。クリス・トーマスが弾くハープシコードとジョージ・マーティン編曲のストリングスが辛辣な皮肉をより強調している。
13ROCKY RACCOON
ブルースやカントリーの語法を使ったポールのフォーク・ソング。西部劇のパロディのような趣向を用いて物語風の歌詞をポールが語るように歌う。ジョンのハーモニカやジョージ・マーティンのホンキートンク・ピアノも効果的に使われている。
14DON'T PASS ME BY
リンゴ初の単独オリジナル曲。彼らしいカントリー調の曲だが、リンゴが弾くピアノに過剰なまでにエフェクトを施し、ドラムスも敢えて不器用に力を込めて叩く。フィドルもセミプロ・レベルだから、どさまわりの素人楽団によるセッションのように騒々しい。
15WHY DON'T WE DO IT IN THE ROAD
「どうして俺たちは道の真ん中でやらないんだ?」と叫ぶポールのブルース。インドで猿の交尾を見て考えた根源的疑問を歌にしたらしい。シンプルだがパワフルで、不思議な爽快感がある。リンゴのドラムス以外の楽器はポールが演奏している。
16I WILL
2分足らずの小品だが、ポールならではの珠玉のメロディが凝縮された名曲。甘い歌声が耳に心地よい。生ギター奏者としてのポールの技巧も堪能できる。リンゴとジョンのパーカッションも効果的だが、何よりもポールの声によるベースが絶品。
17JULIA
亡き母の名を借りて、実はヨーコに捧げられたジョンのバラード。子守唄のように優しいメロディでジョンは「Ocean child=洋子」に語りかける。インド滞在中にドノヴァンから習ったフィンガー・ピッキングでジョンが生ギターを弾いている。
[Disc 2]
01BIRTHDAY
ロックンロールの醍醐味を詰め込んだポールの曲。パワー全開のヴォーカル、突っ込み気味のドラムス、ツイン・ギターのキャッチーなリフなど、軽薄に騒ぎまくる楽しさ満載のパーティ・ソング。ヨーコとパティによる力の抜けた女声コーラスもナイス。
02YER BLUES
ジョンがインド滞在中に書いた曲。後年の『ジョンの魂』を予告するかのような、ジョンの絶叫が聴ける。ビートルズ・ナンバーの中でも最もヘヴィなブルース・ロック。バンドのテンションを高めるためにあえて狭いテープ倉庫の中での演奏を録音した。
03MOTHER NATURE'S SON
ナット・キング・コールが歌う「ネイチャー・ボーイ」に刺激されてポールが書いたバラード。生ギターの弾き語りにホーン・セクションとパーカッションを加えたシンプルなサウンドだが、ポールならではのオーガニックなメロディが美しい。
04EVERYBODY'S GOT SOMETHING TO HIDE EXCEPT ME AND MY MONKEY
「僕と僕のモンキー以外はみんな何かを隠している」というジョンの曲。当時、ヨーコとの愛の世界に住んでいたジョンには他の連中が皆、異常に見えたようだ。この曲の狂騒的なまでの陽気さには熱愛中のジョンのハイパーな気分がよく表われている。
05SEXY SADIE
導師としてのマハリシ・マヘシ・ヨギに失望したジョンが書いた曲。当初は「マハリシ」という題名だったが、ジョージの意見で変更された。ピアノ、オルガン、コーラスを配したR&B調のバラードで、ファルセットを効果的に使ったジョンの歌声が堪能できる。
06HELTER SKELTER
世界で最も下品で野蛮で騒々しいロックンロールを求めてポールが書いた曲。異常なまでに高いテンションでシャウトし続けるヴォーカル、警報ばりにノイジーなギター・リフ、地鳴りのようなベース、交通事故のようなドラミングによるヘヴィ・メタルの原型。
07LONG LONG LONG
ボブ・ディランに影響されたコード進行でジョージが書いたワルツ。雲の上を滑るようなポールのハモンド・オルガンをバックにジョージが呟くように歌うジェントルなラブ・ソング。リンゴのドラミングがドラマティックな効果を生んでいる。
08REVOLUTION 1
ジョンが革命についての自分の考えを歌った曲。録り直したシングル・ヴァージョンよりも遅いテンポで、生ギターとドゥーワップ・コーラスをフィーチャー。ノイジーなエレキ・ギターとホーンズも効果的に挿入され、より奥行きのあるサウンドが楽しめる。
09HONEY PIE
架空のハリウッド女優ハニー・パイに向けてポールが書いたラブ・ソング。彼が大好きな古き良きボードヴィル音楽へのオマージュ。冒頭にはSP盤のSEもあり、フレッド・アステアにでも歌わせたい洒落たジャズ・ソングに仕上げられている。
10SAVOY TRUFFLE
甘党のエリック・クラプトンの歯痛に刺激されてジョージが書いた曲。ユルいノリのリズム隊が生んだ味わい深いグルーヴに乗って、ジョージが「サボイ・トラッフル」の旨さを歌う。クリス・トーマスのスコアによるホーン・セクションも好サポート。
11CRY BABY CRY
ジョンが粉ミルクのCMからヒントを得て書いた曲。マザーグースの童謡を基にルイス・キャロル的な世界を描いたトラッド調のフォーク・ソングだが、劇的な編曲はややドラッギーでもある。そしてポールが書いた最終ヴァースが不気味な余韻を残す。
12REVOLUTION 9
「レボリューション1」のフェイドアウト後のトラックをベースに、クラシック音楽やSEのテープを切り刻み、再び繋ぎ合わせ、逆回転などの処理を施して作り上げた、ジョンとヨーコのサウンド・コラージュ。「9」は、10月9日に生まれたジョンのラッキー・ナンバー。
13GOOD NIGHT
ジョンが当時5歳の息子ジュリアンのために書いたセンチメンタルな子守歌。ハリウッド調の華美で豪奢なオーケストレーションとコーラスをバックに、千両役者リンゴがけれん味たっぷりに歌う。最後のセリフも含めて、他のビートルには真似のできない名演技。