ミニ・レビュー
ツアーに明け暮れファンに追いかけられる日々にうんざりのビートルズにとって唯一心安まる場所はアビー・ロードにあるEMIスタジオであったという。当時としては珍しいシタールの使用や複雑に構成された曲等、新しい試みでアイドルからの脱皮に成功。
ガイドコメント
レコーディング・バンドとして歩みはじめた彼らによる、自由な発想てんこ盛りのアルバム。当時としては異色の“内省的”なアルバムでもある。1965年12月発売、12週連続全英1位を記録。
収録曲
01DRIVE MY CAR
モータウン・サウンドを意識した曲。ポールの曲だが歌詞にはジョンの発想も。モータウンばりのベース・ラインを主軸に、剃刀のようなリード・ギター、簡潔だが効果的なピアノなど、スマートでタイトな新型ビートルズ・サウンドが楽しめる。
02NORWEGIAN WOOD (THIS BIRD HAS FLOWN)
のちに歌詞の解釈が話題になったジョン主導の名曲。ジョンが物語るように歌うメロディとジョージのシタールが生ギターに絡むサウンドは、浮気や放火の歌とは思えぬほど美しい。ポップ音楽で初めてシタールを本格的に導入した曲としても知られている。
03YOU WON'T SEE ME
ポールが書いたキュートなポップ・ソング。これはもう誰が聴いてもポールのメロディ。ピアノとベース・ラインを主軸にしたサウンドは、簡潔だが適切にまとめられている。ファルセットを多用したジョンとジョージのコーラスも好サポート。
04NOWHERE MAN
1965年のアルバム『ラバーソウル』などに収録。分厚いコーラスかつスウィートなメロディによるナンバー。社会との関係を拒み、孤独に生きる男を歌いながら、「僕や君もちょっと自分のことのように思いませんか?」という問いかけも。
05THINK FOR YOURSELF
ジョージのメッセージ・ソング。彼の個性が鮮明になった最初の曲で、皮肉っぽい口調で投げ出すような歌い方が後年の作風を予告している。ポールの図太いファズ・ベースがバンドを牽引し、リンゴのドラミングがサウンドを引き締める。
06THE WORD
のちに重要なテーマとなる“Love”の概念を初めて明確に表現したジョンとポールの共作曲。リード・ヴォーカルはジョンだが、二人のハーモニーが主体。飛びきりタイトなバンド・サウンドが楽しめる。ジョージ・マーティンのハーモニウムも印象的。
07MICHELLE
“ミッシェル、僕の恋人……”という歌いだしによる、しっとりと甘いラヴ・ソングの名曲。フランス語と英語を交えて歌われ、ポール・マッカートニーの情熱的な歌と流れるようなメロディ・ラインが印象的。
08WHAT GOES ON
リンゴが歌うカントリー調の曲。基本的にはジョンの曲だが、リンゴが共作者としてクレジットされた初めての曲でもある。去っていった恋人に「なぜ?」と問いかける歌。ジョンとジョージが多様なテクニックを駆使したギター・プレイを披露。
09GIRL
ジョンが「理想の女性」について書いた曲。アコースティックなサウンドで綴られた美しいバラードだが、歌詞にはキリスト教に対する懐疑的な意見も。息つぎの音が歌声や楽器と同じくらい効果的に使われていることでも話題になった。
10I'M LOOKING THROUGH YOU
ポールが離別中の恋人ジェーン・アッシャーに向けて書いた曲。カントリー風味もあるフォーキーなサウンドが基調だが、けたたましいハモンド・オルガンとエレクトリック・ギターが歌の主人公の苛立ちや怒りを代弁している。
11IN MY LIFE
ジョン・レノンが人生を振り返るように、愛する故郷の人々へ思いを馳せるメロディアスな名曲。途中の間奏では、ジョージ・マーティンのクラシカルな鍵盤演奏が彩りを添える。1965年のアルバム『ラバーソウル』などに収録。
12WAIT
ジョンとポールの共作曲で、二人がヴォーカルをシェアしている。前作『HELP!』のアウト・テイクの焼き直しのせいか、歌詞やサウンドはやや若い印象。ドラムス、タンバリン、マラカスなどのパーカッションが楽曲をタイトに引き締めている。
13IF I NEEDED SOMEONE
ザ・バーズのサウンドに刺激されてジョージが書いた曲。3声のヴォ-カル・ハーモニーや12弦ギターの美しい響きを生かしたフォーク・ロック・サウンドは“ビートルズ・ミーツ・ザ・バーズ”。仮定法を使って恋心を間接的に表現した歌詞も彼らしい。
14RUN FOR YOUR LIFE
ジョンの吐き捨てるような歌い方が印象的な曲。エルヴィス・プレスリーの「ベイビー・レッツ・プレイ・ハウス」の歌詞の一部を借用しているせいか、作者のジョンは嫌っていたが、短気で嫉妬深い男を主人公にしたマッチョなラブ・ソングの佳作。