ミニ・レビュー
コンサートから遠ざかってしまったビートルズが2か月半を費して完成させた第7作。ラーガ・ロックやエフェクターなど様々な音楽的効果を意欲満々積極的に採り入れ、革新的なサウンドを作ることに成功。クラウス・ヴーアマンのジャケはグラミーを受賞。
ガイドコメント
ジャケット・デザインしかり、テープ逆回転という実験的なサウンドしかり、本盤のサイケデリック・アートへの影響は絶大。前作を凌ぐ斬新な発想が渦まいている。1966年8月発表、7週連続全英チャート1位を記録。
収録曲
01TAXMAN
ジョージが書いた英国製R&B。英国の重税を揶揄した歌詞の通り、ジョージの歌い方も皮肉っぽい。強靭なベース・ラインを中心に、切れ味の鋭いリズム・ギターやドラムスがタイトなバンド・サウンドを展開。ポールによるラウドなリード・ギターはややラーガ・ロック風。
02ELEANOR RIGBY
1966年発表のアルバム『リボルバー』などに収録のナンバー。重厚なストリングスが印象的で、“悲しい人たちはどこからやってくるのだろう”といった深みのある歌詞が大人の風情を感じさせる、ポール・マッカートニーのリード曲。
03I'M ONLY SLEEPING
ユルいシャッフル・ビートに哀愁のメロディを乗せたジョンの曲。テープの回転数を操作したジョンの気だるい歌声にテープ逆回転ギターのサイケデリックなフレーズが割り込んでくる。時間に追われる現代社会を風刺した歌詞にふさわしいサウンドだ。
04LOVE YOU TO
ジョージがインド音楽をポップ音楽に取り入れた最初の曲。シタールとタブラを本格的に導入したそのサウンドはラーガ・ロックの嚆矢とも言える。歌詞にも東洋思想の影響が感じられ、ジョージのヴォーカルまでがやや読経的に響く。
05HERE, THERE AND EVERYWHERE
どこまでも甘いメロディとヴォーカルによるバラード系ナンバー。メジャーによる曲調のなかに、マイナーを織り交ぜたメロディの展開、緻密なコーラス・ワークが魅力。1966年のアルバム『リボルバー』に収録。
06YELLOW SUBMARINE
1966年8月にシングル、アルバム『リボルバー』で発表、のちにアニメ映画のタイトルかつテーマ・ソングになった名曲。トボけた作風ながら、実際に潜水艦に乗っているようなサウンド・エフェクトにもこだわったポップ・ナンバー。
07SHE SAID SHE SAID
俳優ピーター・フォンダらとのLSD体験を基にジョンが書いた曲。刺々しいエレクトリック・ギターが鳴り響くサウンドは乱痴気パーティのように騒々しい。二つの世界を往来するジョンの歌声とともに不安定に揺れ動くビートが聴く者を酩酊させる。
08GOOD DAY SUNSHINE
ポールがラヴィン・スプーンフルをイメージして書いた曲。“サマー・オブ・ラヴ”の前年の夏に録音された賑やかな太陽讃歌。ピアノ、ベース、ドラムスだけの演奏だが、ピアノとドラムスは多重録音されている。ジョンとジョージの参加は手拍子のみ。
09AND YOUR BIRD CAN SING
一瞬の閃きから生まれたであろうジョン主導の曲。ジョンが歌うキャッチーなメロディは力強いが、狂騒的なツイン・リード・ギターはそれ以上に饒舌で、この曲のハイパーな躍動感を強調している。このテンションはドラッグ体験の影響か。
10FOR NO ONE
ピアノの弾き語りを基調にしたポールのバラード。メロディやベース・ラインはポールならではのもので、チェンバロやフレンチホルンを起用したバロック調の編曲も彼らしい。リンゴはドラムスを叩いているが、ジョンとジョージは演奏に参加していない。
11DOCTOR ROBERT
ニューヨークに実在したチャールズ・ロバート医師をモデルに書かれた曲。基本的にはジョンの曲だが、サビはポールが手掛けている。ドラッグを奨励するような歌だが、カントリー・ロックにサイケデリック・サウンドが絡む構図もかなりドラッギー。
12I WANT TO TELL YOU
フェイド・インで始まるジョージの曲。優柔不断なメロディがいかにもジョージらしい。歌の中のシャイな語り手もジョージの分身か。ギター・リフも魅力的だが、耳障りなピアノが実はポイント。91年の日本公演のオープニング・ナンバーでもある。
13GOT TO GET YOU INTO MY LIFE
作者のポール自身によれば「マリファナの唄」。軽快なポップ・ソングと強烈なファンク・ロックを合体させた、ビートルズ版ソウル・ミュージック。ビートルズがホーン・セクションを本格的に導入したのは初めてだが、斬新な編曲は後年のブラス・ロックをも想起させる。
14TOMORROW NEVER KNOWS
LSD体験を基にしたジョン主導の曲。テープの逆回転やループを駆使した実験的なサウンドとドラッグ文化の導師ティモシー・リアリーの著書に刺激されて書いた歌詞による、画期的なサイケデリック・チューン。次作『サージェント・ペパー』の大胆不敵な予告篇。