ミニ・レビュー
初主演映画『A Hard Day's Night』のサントラ。初めての完全なオリジナル作品集であり、4トラックのレコーダーを駆使した多重録音によって初期のビートルズ・サウンドを確立したアルバムでもある。今聴いても個々の楽曲の質は驚くほど高い。
ガイドコメント
彼ら初の主演映画のサントラ盤。全曲レノン&マッカートニー名義の曲で占められた最初で最後のアルバムで、“初期”ビートルズの最高傑作。1964年7月発表、21週連続全英1位を獲得。
収録曲
01A HARD DAY'S NIGHT
1964年の初主演映画の主題歌。“ジャーン”という12弦のエレキ・ギターによる強烈なイントロから、ジョンとポールのヴォーカル・パートの対比、カウベルなどを強調したリズムなど、聴きどころ多数の完璧なポップ・ソング。
02I SHOULD HAVE KNOWN BETTER
アルバム・タイトル曲の勢いを受け継ぐジョン主導の曲。ハーモニカと生ギターをフィーチャーし、ジョージの12弦ギターが美しく鳴り響く。シンプルな曲だが、若きジョンの歌声と印象的なメロディ・ラインを愛するファンも多い。
03IF I FELL
ジョン主導のラブ・バラード。ジョンとポールの鮮やかなヴォーカル・ハーモニーが相反する感情の交錯を鮮やかに描き出す。複雑なコード進行や転調の多用にもかかわらず、誰もが聴き惚れる名曲に仕上げた手腕に改めて最敬礼。
04I'M HAPPY JUST TO DANCE WITH YOU
ジョンがジョージのために書いた曲。バンドを引っ張るジョンのリズム・ギターに先導されて、ジョージのナイーヴな歌声が控えめな青年の愛の告白を見事に演じている。ジョンとポールのコーラスにも助演男優賞を与えたい。
05AND I LOVE HER
ポールが書いた最良のラブ・バラードのひとつ。歌詞はやや感傷的だが、ガット・ギターとボンゴを使ったボサ・ノヴァ風味のアコースティックなアレンジが救っている。全米チャート12位のヒットを記録し、のちにジャンルを超えたスタンダードに。
06TELL ME WHY
ジョンが映画のために書いた曲。不実な恋人を問い詰める失恋の歌だが、すべてを笑い飛ばすかのようなジョンの剛胆なヴォーカルが歌詞の内容を超えて突っ走る。3声のハーモニーもジョン自身の多重録音によるものだ。
07CAN'T BUY ME LOVE
“愛はお金で買えない”という明快なメッセージを込めて歌われるナンバー。ブルージィな印象ながら、溌剌としていて洗練されたメロディで聴かせるビートルズならではの名曲。1964年に全米で大ヒット。
08ANY TIME AT ALL
ジョンが「イット・ウォント・ビー・ロング」のコード進行を応用して書き上げた曲。強引な展開も目立つ曲だが、リンゴの一撃にハジかれたように歌い出すジョンの歌声には強烈なカリスマがあり、荒っぽい力業で聴き手を説得してしまう。
09I'LL CRY INSTEAD
ジョンが映画のために書いた失恋の歌。大袈裟な歌詞とカントリー調のサウンドとの相乗効果で喜劇的な印象もある。シンプルな曲だが、録音に手こずり、前半と後半の二つのパートに分けて録音し、ジョージ・マーティンが編集で繋げた。
10THINGS WE SAID TODAY
マイナー・コードでの曲作りを試していた時期のポールの曲。アコースティックなサウンドをバックに哀愁のメロディを淡々と歌うラブ・ソングだが、メジャーに転調する大サビでは異なるトーンで愛の高揚感を表現。技ありの佳作。
11WHEN I GET HOME
ウィルソン・ピケットを意識したというジョン主導の曲。シャープなリズム・ギターが牽引するソウル調のリズムに乗って、ジョンのハスキーなシャウトが派手にハジケる。ダンサブルな曲だが、意外に凝った仕掛けが施された曲でもある。
12YOU CAN'T DO THAT
サザン・ソウルに傾倒していた時期のジョンの曲。嫉妬深く被害妄想の気もあるエゴイストの歌をこんなに激しくカッコよく歌える男は他にいない。ワイルドなギター・ソロも披露するこの時期のジョンの勢いは誰にも止められない。
13I'LL BE BACK
少年時代に生き別れた父フレッドと17年ぶりに再会したジョンが父に向けて書いたといわれる曲。当時のジョンとポールが試していたマイナーとメジャーを組み合わせた曲のひとつ。曖昧な二面性がこのフォーキーな曲に奥行きを与えている。