ミニ・レビュー
1969年の、あまりにも有名なジャケットのビートルズ作品だが、(1)のJ・レノンの歌声からずっと、成熟したビートルズというものが感じられる。スタジオ技術だけにたよっていた時期から、音楽家として何かふっきれたような彼らの真骨頂がきける最高傑作。
ガイドコメント
事実上のラスト・アルバム。久々に“4人”で作ったアルバムでもある。ジャケットをパロったアルバムは数知れず。1969年9月発表、18週連続全英1位を獲得した。
収録曲
01COME TOGETHER
アルバム『アビイ・ロード』の冒頭に収録されたロック・ナンバー。もとは選挙のキャンペーン・ソングとして作られたが実際には未使用。タムを使った効果的なリズム・アレンジとイマジネイティヴな歌詞が印象的。
02SOMETHING
ジョージ・ハリスン作による1969年10月発表のシングル曲。たゆたうように下降してゆくAメロ、ドラマティックなサビといったメロディの完成度が高い名曲で数多くのアーティストにカヴァーされている。
03MAXWELL'S SILVER HAMMER
ポールならではのボードヴィル調の曲。ホラーな歌詞を陽気な曲調で楽しげに歌ってみせるところが彼らしい。ピアノとベースがサウンドの中心だが、ハンマーで金床を叩く音も効果的。新兵器モーグ・シンセサイザーは隠し味的に使われている。
04OH! DARLING
ポールが書いた50年代感覚のロッカ・バラード。第一印象はファッツ・ドミノ+リトル・リチャードだが、大胆な転調や巧みな編曲のため、古臭さは感じられない。サウンドの細部も凝っているが、何よりもポールのヴォーカルが圧倒的に素晴らしい。
05OCTOPUS'S GARDEN
「海の底のタコの庭で暮らしたい」というコミカルな歌詞を持つリンゴの曲。リンゴらしいカントリー調のポップ・ソングで、彼の呑気な歌声に中性的なコーラスやジョージのリード・ギターが絡む。海の底を連想させる明快なSEも楽しい。
06I WANT YOU (SHE'S SO HEAVY)
7分以上にも及ぶジョンのブルース。3連と8ビートを繰り返しながら徐々にピークへと登りつめていく展開。ポールのベースやビリー・プレストンのオルガンなど演奏も強力だが、最小限の歌詞でメッセージを伝えようとするジョンのシャウトが凄まじい。
07HERE COMES THE SUN
清らかなアコースティック・ギターで始まるジョージ・ハリスン作の名曲。途中のリフレインでは当時珍しかったシンセサイザーの音色が聴ける。ジョージがエリック・クラプトンの家で曲を思いついたというエピソードは有名。
08BECAUSE
ヨーコが弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタ「月光」からヒントを得てジョンが書いたバラード。ジョン、ポール、ジョージによる3声のコーラスを3度重ねたヴォーカル・ハーモニーの透明な美しさは絶品。後半ではジョージがモーグ・シンセサイザーを弾いている。
09YOU NEVER GIVE ME YOUR MONEY
『アビイ・ロード』B面メドレーの最初の曲。ポールが書いたこの曲自体がミニ組曲形式になっている。ピアノの弾き語りから始まり、ホンキートンク調のブギからR&Rへと展開していくこの曲の歌詞でポールはアップルの財政難について言及している。
10SUN KING
鳥や虫の声を模したSEを背景にしたエキゾチックなイントロから始まるジョンの曲。ビーチ・ボーイズばりの美しいコーラスからスペイン語やイタリア語を混ぜ合わせたラテン風味のヴァースへと展開する。「ミーン・ミスター・マスタード」とのメドレー形式で録音。
11MEAN MR MUSTARD
ジョンが新聞記事からヒントを得て書いた曲。ポールのファズ・ベースが先導するファンキーなサウンドに乗って、公園で暮らすマスタード氏と彼の妹パンの生活が歌われる。ナンセンスではあるが妙にリアルな一節もある歌詞の世界はジョンならでは。
12POLYTHENE PAM
ポリエチレン(polythene)の服を着た女性と出会った体験を基にジョンが書いた曲。ジョンはあえてリヴァプール訛りで歌っている。タムを多用したリンゴのドラミングが賑やかなサウンドを牽引し、次曲「シー・ケイム・イン〜」への橋渡し役も演じている。
13SHE CAME IN THROUGH THE BATHROOM WINDOW
ジョンの「ポリシーン・パン」とのメドレーで録音されたポールの曲。「彼女はバスルームの窓から入ってきた」という設定が秀逸だが、曲自体もメドレーの一部にしておくのはもったいないほどソウルフルで力強い。ジョー・コッカーによるカヴァーも有名。
14GOLDEN SLUMBERS
英国の劇作家トマス・デッカー(1570〜1632)による子守唄の歌詞を基にポールが書いた曲。ピアノの弾き語りを基調にした子守唄だが、ストリングスとホーンズを使った編曲はきわめてドラマティック。わずか1分半で終わってしまうのが惜しい名曲だ。
15CARRY THAT WEIGHT
「ゴールデン・スランバー」とのメドレーで録音された曲。合唱隊ばりの力強いコーラスを主軸にしたダイナミックな構成で、途中に「ユー・ネヴァー・ギヴ〜」を挟み込み、再びコーラスに戻る。リンゴのドラミングとジョージのギター・ソロも印象的。
16THE END
ビートルズ最後のアルバムの最終章を飾る曲。リンゴのドラム・ソロから始まるインストゥルメンタル曲で、ポール、ジョージ、ジョンが三者三様のギター・ソロを披露する。そしてビートルズからの最後のメッセージは「君が得る愛は君が与える愛と等しい」。
17HER MAJESTY
23秒のシークレット・トラック。捨てられるはずだった曲が復活した。ポールによる生ギターの弾き語り。「女王陛下はいい女だから、いつかモノにしてやる」という歌詞が笑わせる。実はこれが最後の1曲。いかにもビートルズらしいジョークだ。