ミニ・レビュー
初めて全曲オリジナルで占められ、またシタールなど幻想的な音の導入で、サイケ時代の幕開けを告げたともいえる作品の米国版がこれ。冒頭に収録の大ヒット曲「黒くぬれ」の異端ぶりは当時衝撃的だったに違いないが、今回のSACD化による音質向上も衝撃的だ。
ガイドコメント
米国での7枚目、1966年7月リリース作品。名曲「黒くぬれ」は全米1位を獲得し、本作もヒットを記録。ちなみに今回発売のこのシリーズ、結成40周年記念で初回デジパック仕様ですので要チェック。
収録曲
01PAINT IT, BLACK
英米チャートを制覇した英国ラーガ・ロックの金字塔。失恋の痛手を描いたメロディと歌唱に、エキゾティックなシタールとブンブン唸るベースが禍々しく味つけ。狂おしい曲調が心の闇の部分を触発しまくる名曲だ。
02STUPID GIRL
彼らの女性に対する斜に構えたスタンスが体現されたかのような歌詞は、町行く気取った女たちへの罵詈雑言の嵐。中盤以降でのモータウン・サウンドの影響大な展開&軽妙なギター・ソロも魅力的なビート・ナンバー。
03LADY JANE
ハープシコードとダルシマーが中世世界のムードを醸すフォーキー・ソング。紳士で真摯な甘いムードの楽曲だが、歌詞では複数の恋人に「高貴な女性と結婚することにしたので君とはお別れ」と告げる人でなしぶりが炸裂。
04UNDER MY THUMB
黒人音楽からの影響をバンド独自のR&Bフィーリングとして楽曲化した名曲。土台にモータウン・サウンドがあるのは明白だが、そこにマリンバを加えアレンジするセンスがお見事。歌詞は女性蔑視だとして世間から非難。
05DONCHA BOTHER ME
真似をするな、お前のやり方を見せろと歌う歌詞が、まるでカヴァー曲中心だった前作までの自分たちに向けられているようなバンド自作のブルース。ブライアン・ジョーンズの弾くスライド・ギターが楽曲を本格派ムードに。
06THINK
数々のカヴァーをこなしてきた彼らによる自作のR&Bスタイル・ナンバーは、あまりに本格的なR&B愛あふれる佳曲。彼らのヒット曲にある、山あり谷ありサビもありな明快さとは異なった、なだらかに盛り上がる曲調が新鮮。
07FLIGHT 505
飛行機の座席を予約し離陸し海に不時着するまでが軽妙に綴られたロックンロール・ナンバー。イントロでほんの一瞬「サティスファクション」化するイアン・スチュワートのピアノが、終始曲調をホンキー・トンクな趣に。
08HIGH AND DRY
恋人に金目当ての交際だと気づかれた主人公が、ならば今度は貧乏な娘と付き合おう、と懲りずに嘆くナンバー。渡米し体得した米国ルーツ音楽を、あくまでストーンズ流に咀嚼し調理したカントリー・ブルースの小品だ。
09IT'S NOT EASY
女に逃げられた男が、ひとり暮らしは楽じゃないと歌うチャック・ベリー直系のロックンロール・ナンバー。キースやミックの魅力に隠れがちだが、ビル・ワイマンが黙々と弾く虚無的な風情のベースも地味にまぶしい。
10I AM WAITING
歌詞中の“遅かれ早かれ”にかけたわけでもあるまいが、スローなパートと、ややアップテンポなパートとが幾度となく交錯する実験的な曲。先鋭的な曲構成が、含みを持たせた歌詞との相乗効果で今も楽曲の鮮度を保持。
11GOING HOME
溜めに溜めた男の帰宅しヤリまくるまでが明快に描かれた性的欲求不満解消ソング。当時のポップ・ソングとしては異例の長さとなる都合11分超の遅漏ブルースは、ルーズでねっとりとした冗漫寸前の曲調がたまらない。