ミニ・レビュー
いま話題のSACDで何度目かの再発となった67年作。『サタニック・マジェスティーズ』への伏線であり、時代の空気を反映したサイケデリック感の中にも音楽的試行錯誤が見え隠れする。ちなみに、普通のCDプレーヤーでも音の抜けが良く、より立体的に聴こえるのは気のせい?
ガイドコメント
英国では6枚目となる1967年1月リリース作品。ジョン・グリンズがエンジニアとして参加し、アレンジ、サウンド・メイキングなどにもヒネリが入ってきた。ひき続き全曲ジャガー=リチャーズ作品。
収録曲
01YESTERDAY'S PAPERS
ヴァイヴ、ベル、多彩な打楽器などを使用したり、凝ったコーラスをフィーチャーしたり、これまでにない斬新な音作りに挑戦したストーンズの意欲作。そろそろ別れる潮時の恋人を“昨日の新聞”にたとえたやや女性蔑視的な歌詞もよくできている。
02MY OBSESSION
やや前のめり気味のビートを主体にした曲。コーラスをメインにしたヴォーカルは性的な歌詞を歌っている。イアン・スチュワートのピアノも光る。曲としての焦点は絞られていないが、サイケデリック前夜の混乱が生んだ奇妙なサウンドが楽しめることはたしか。
03BACK STREET GIRL
ブライアンのアコーディオンをフィーチャーしたアコースティックなサウンドをバックに、ミックがひたすらジェントルに歌う。といっても、語り手が浮気相手に「家には電話するな」などと言っているような内容の歌詞だから、最後まで笑わずに聴くのは難しい。
04CONNECTION
キース主導によるカントリー調の曲。ミックとキースの男っぽいコーラス・パートをフィーチャーしたもので、当時のストーンズの可能性を広げた曲のひとつ。キースの88年のソロ・ツアーではセット・リストに加えられ、ライヴ・アルバムにも収録されている。
05SHE SMILED SWEETLY
ストーンズが新たなサウンドに挑戦した曲のひとつ。イアン・スチュワートの教会音楽風のオルガンとジャック・ニッチェのピアノをバックに、ミックがボブ・ディラン風の歌声を披露する。2001年には映画『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』の挿入歌として使用された。
06COOL, CALM & COLLECTED
イアン・スチュワートのホンキートンク・ピアノやカズーをフィーチャーしたラグタイム調の曲だが、さらにサイケデリック・ロック風のギミックも挿入され、最後には混乱した状態でエンディングへと雪崩れ込む。当時のストーンズらしい意欲的な失敗作。
07ALL SOLD OUT
チャーリーが叩き出す一風変わったリズムを軸に、さまざまな実験を盛り込んだ曲。キースが披露する多彩なギター・テクニックも聴きもの。いろいろな音があちこちで鳴っているこのサウンドがいったい何を目的としたものなのか、よくわからないところが面白い。
08PLEASE GO HOME
敬愛するボ・ディドリーのジャングル・ビートと当時最新のサイケデリック・サウンドを組み合わせた実験的な曲。新兵器ムーグ・シンセサイザーの宇宙的な音も鳴っている。のちに発表される『サタニック・マジェスティーズ』の予告篇、と言えないこともない。
09WHO'S BEEN SLEEPING HERE?
「ライク・ア・ローリング・ストーン」を連想しないわけにはいかないフォーク・ロック調のサウンドをバックに、ミックがボブ・ディラン風のヴォーカルを披露する。英国の童話「Goldilocks and the Three Bears」を下敷きにした歌詞も面白い。
10COMPLICATED
アフロ・ロック調のリズムをフィーチャーした曲。ジャック・ニッチェのオルガンがサウンドを先導している。ダルいコーラスも新機軸だが、何といっても大胆なリズム・チェンジの繰り返しがこの曲の最大の見せ場。チャーリーの巧みなドラミングが光る。
11MISS AMANDA JONES
派手に掻き鳴らされるファズ・ギターがバンドを先導し、ビルのベースが快調にドライヴするストーンズらしいロックンロール・チューン。「ライク・ア・ローリング・ストーン」ばりの歌詞はやや回りくどいが、サウンドはひたすらストレートに突っ走る。
12SOMETHING HAPPENED TO ME YESTERDAY
キースのヴォーカルをフィーチャーした曲。ホーン・セクションも加わったボードヴィル調のコミカルなサウンドに乗って、キースが自身のドラッグ体験についてクールに歌う。最後は司会者に扮したミックがニュース番組風のナレーションで締め括ってみせる。